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Second memory(Sarosu)22

 今、俺の目の前には――ヤチヨがいる――。

 どういうことかはわかんねぇけど……思わず、泣きそうになった。

 でも、泣くことなんかできない。

 だって……俺が泣いたら、今にも泣き崩れそうなこの大人になったヤチヨに心配をかけちまう……。
       
       それは、絶対に嫌だ。 

 ヤチヨが突然立ち上がり、逃げようとする。反射的に体が動いた。

 その結果……咄嗟に手を掴み引き留める。

「……お前、また、また、、どっか行っちまうのか?」
「えっ? サロス? 何言ってるの……良いから離して……」
 
 確信はあったが、どうしても直接その事実が本当であることを聞きたい。

「……難しいことは今はどうでもいい……」
「っつーー離して! 離してよ!!」
 
 ピスティもこれから俺が何を言おうとしているのか、なんとなく予感があるのかも知れない……。

「ピスティ……いや、その名前でいつまでも呼ぶのはおかしいよな……」
 
 間違いかも知れない、勘違いなのかも知れない……そんな言葉をいくら繰り返しても、俺は……。

 膨れ上がっていく気持ちは抑えられなかった。目の前の人物がそうであってくれという想いが強くなる。

「……ヤチヨ」

 ピスティが振り返り、俺の胸に抱き着いて泣いた。

 ……なんで今ヤチヨがここにいて、俺より成長しているのか? 

 そんな些細なこと、どうでも良かった。
 
 撫でようとした手が、ピスティの頭に触れる寸前で止まる。

 俺は、そんなことすらも躊躇してしまうようになってしまったのか。

 子供の頃なら、きっと何も考えずに頭を撫でてやれたのに……。

 今、目の前にいるのはあの頃の小さなヤチヨじゃない。成長した……大人のヤチヨだ。

 そんなヤチヨを目の前にしてどうすればいいのかわからない……俺は、ピスティが泣き止むのを待つことしか、できなかった。
 
 時間が経って、落ち着き始めたようなので恐る恐る声をかける。

「なぁ、ヤ——」
「サロス。あたしはヤチヨじゃないよ」
 
 そう言って、ピスティが笑う。

 ……そうか、どんな理由があるのかわかんねぇけど、お前はこれからもピスティでいるつもりなんだな……。

「でも、ピスティって、名前でもないんだ」
 
 ……そうやって、また、嘘を重ねるのか?

「あたしは……ヤヨ。ヤチヨの……腹違いの姉よ」
 
 姉……か……それは、前にも聞いたな……そっか……別人ごっこか。
 
 嘘は言って、ない!? ……唇は……噛んでいない……どういうことだ?

 ……まぁ、いいか……なら、付き合おうじゃねぇか……その遊びに……。

「ヤヨ……? ヤチヨじゃない……じゃあ、なんでヤチヨと俺くらいしか知らない思い出をお前が!!!」
 
 そら、これを貫きとおすには無理がある。

 知りすぎているんだ……他人だって言うなら、その理由をどう説明するつもりなんだ?

「あたしとヤチヨは昔から、不思議な繋がりがあったの。夜、夢の中でお互いの体験したこと経験したことを共有できる、っていうね」
「えっ!? 姉妹ってそんなことができるのか?」
「多分、あたしとヤチヨだからできるんだと思う。昔から、なんでできるのか不思議だったけど……でも、あたしとヤチヨならそういうことができるの」
 
 ……かなり、無理矢理だと思った。苦笑いが零れそうになる。

 ……そんな出来の悪い作り話。誰だって、信じないだろう。

「信じられない? サロス?」
 
 でも俺は……俺だけは、そんな出来の悪い話でも、信じざるを得ないんだ。だって……。

「……ずりぃな。姉妹そろって、そんな顔されたら、信じられない。なんて、俺が言えるわけねぇじゃねぇか」
 
 そう、言えるわけがない……唇を噛まない限りは……俺は……俺だけはヤチヨを信じてやると心に決めたから。 

 それが子供の頃からの変わらない約束。俺とヤチヨのたった一つの決め事だ。

「嘘は、言ってないから。信じてもらうしかないんだからね」
 
 柄にもないウインクなんてして……もう、めちゃくちゃじゃねぇか……。
 
 そんなこと、ヤチヨもピスティもするわけねぇだろ。ヤヨ……ヤチヨではないけど、ヤチヨに限りなく近い存在。

 ……もどかしいな。
 
 目の前にいるはずなのに、届きそうで届かないっていうのは……。


 続く

作:小泉太良
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