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10 ランチタイムウォー開戦

 午前中の授業が終わると生徒たちはそわそわとした空気を醸し出していた。それもそのはず、この学園の昼食の時間はそれこそもう一つの戦場だと揶揄されるほどに激しい。

 学園内には生徒たちの優劣をランキング形式であえて表記している制度が存在する。そして、そのランキングでも選択できるメニューが異なり、また人気のメニューは限定数であることも多いので生徒たちは我先にと食堂へと駆け込む。

 騎士になる為には身体作りも必須。
 
 つまり食事も大事だという事で、栄養バランスなども含めて、これまでの生活では食べられなかったような食事がメニューに並ぶこともある。
 特に学園に入学するまで身分が低く、これまでの暮らしを質素に過ごしてきた生徒にとってはごちそうともいうべき食事が昼食で食べられるとあって、その熱気は尋常でないほどの状態になるのも珍しくなかった。

 ただし、この校風からメニューの奪い合いなどのいざこざも割とよく起きる。一般的に想像されるいざこざとは違う点があるとするならば場合によっては命にかかわる可能性もあり得るという点だろう。

 普通に考えれば異常なことであるが、何時いかなる時も臨戦態勢に入れることを目指す騎士の卵たちにとってはこれが日常となる。

 食事ごときで命を、、、と考える人間もいるかもしれないが、食による身体作りは成長期に差し掛かる彼らにとっては将来にも多大に影響する非常に大きなファクターとなっている為、一概に命を懸けるほどの必要がないとも言い切れないだろう。

 大抵の場合は『学園内ランキング』がある程度の順位で離れていれば下の者が諦めて譲るようなこともあるが、実力が拮抗している者達の間では争いが起こりやすい。

 そして、そんなもう一つの戦場に初めての生徒達、新入生が初めて足を踏み入れるこの時期は混沌としており、ある種の試験のような様相となり、食堂内は比喩でもなくさながら戦場のようになるのだった。

 昨年一年の間に落ち着いていた食堂の中での序列などが一気に変わる可能性がある季節。

 将来性ある新入生が見つかれば懇意にすることで自分の優位になることもある上に、場合によってはいわゆる生徒内の派閥のようなものの勧誘目的のレベルチェックの場ともなっているのも争いが激化する原因の一つだと言える。

 とはいえ、上級生たちも反対に下級生から足元をすくわれるようなことがあることも十分に分かった上で昼食戦線に臨む。(望むというのが既におかしな話ではあるが)

 つまりこの時期は全員が異様な緊張感をもって昼食に突入するという一般的には考えられないようなランチタイムが始まりを告げるのである。

 新入生たちは勿論、そんな事が起きるとはつゆ知らずランチタイムの優雅な食事の内容にしか目が行っていない者も多い。こうした油断や甘えから場合ここで命を落とすような者も現れる。
 稀ではあるとは言え、過去にそうした事例があったのも事実ではあり、上級生を中心にこの日はいつもの昼食とは違う準備をして臨む者達でこの空気は生み出されていく。

 そして、その空気を新入生が感じ取り、凄まじいまでに重苦しい空気が校内を駆け巡っていく。空気が伝播するというのが目に見えるように伝わりゆく様がはっきりと分かる光景はその渦中にさえいなければ興味深いものに見えるかもしれない。

 たかが昼食、されど昼食。

 ある意味、美味しい初めての昼食を無事に食べる為にこのシチュエーションにおいて通常の戦場よりも力を発揮する生徒も中には存在する為、最初に新入生たちの秘められたポテンシャルを測るのに良い機会として利用をされているというわけだ。


 話は長くなったが、シュレイド達、午前中に走り込みをしていた生徒たちもお腹を空かせて今か今かと待ち望んでいた時間。

 よもやこのようなイベントが待ち構えているとはつゆ知らず、まもなく鳴り響くであろう昼のチャイムを待ちわびている、、、



 、、、そして、ほどなくしてその時間は訪れる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘がなると同時に周りから様々な声が飛び交っていく、地鳴りと共に多くの生徒たちは学園敷地内の校舎内外から一斉に走り出し食堂へ向かう!!

「なになに??? え、なにこれ、なにこれ??」
「わっ!!ちょ、ちょっと!? どうなってるの??」
「なんだよ、みんなまだ十分に走れるじゃないか、、、」

メルティナ、ミレディ、シュレイドは突然の出来事に面食らってスタートが遅れてしまう。とそこに一人の男が声をかけてきた。

「よう、シュレイドぉ!! ふふふ、すっげぇ光景だろぉ?(ドヤぁ)」
「だれ? 知り合い?」
「、、、ん、いや、知らない」
「ぅおい!! そりゃないぜマイブラザー、シュレイド!!」
「なんだか愉快な人だねっ、友達なの?」
「いや、別に、、、」
「ひぇっ!! かぅわいこちゃん!! なんだよ!! お前うらやましいな!! 既に両手に花かよ!! なんだよ!! うらやましいな!!」
「なんか同じ事二回も言ってる。」
「そういう病気みたいなんだ。許してやってくれ」
「病気じゃねぇし!! 心の中に浮かんだ気持ちに正直なだけだぜ!!」
「はぁ、で、フェレーロ。何か用があったんじゃないのか?」
「あー! そうでした!! この騒動の事を教えて進ぜよう!!!!」
「いや、それならいい、いらない。じゃあな」
「だから! お前さっきから冷たいってば!!!」
「いや、なんかめんどくさそうだし」
「この騒動はな!! 新入生の初日の昼食時における上級生たちからの新入生への洗礼ともいうべき事態が関わっているらしい!!」
「あ、ミレディ。この人、聞いてもいないのになんか話し出したよ?」
「はぁ、こういうタイプ居るよねぇ。シュレイドがめんどくさそうってい言うのも納得、うん」

 女性二人に敬遠され苦笑いされていることに気付きながらもフェレーロは心を折られずに話し続ける気概を見せた。どうやら精神力もとい、都合の悪い事スルー力だけは並大抵ではない男のようである。


続く

作 新野創


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