7 最初の洗礼(?)
翌日からは全新入生達の日常に基礎体力作りという名の過酷な授業の時間が始まっていた。地獄のようなその授業もといシゴキに耐えられず、次々と生徒たちは道端へと倒れ、屍の山が積みあがっていく。
だが、当然ながら倒れる事を許されてなどいない。すぐに怒声が飛んでくる。よろよろしながらも立ち上がり、ふらつく身体に鞭を打ち生徒たちはひたすら這いずってでも前進をするしかなかった。
「ひよっこども!! この程度で何、音を上げている!! だらしない!! さっさと立ち上がって動き続けろ!! そのような体たらくで騎士になれるとでもまさか本気で思っているんじゃないだろうな!」
カレンを筆頭に管理の他クラスの先生方からも様々な怒号が飛び交っている。
基礎体力作りという名目ではあるが、この授業は毎年恒例で初っ端にやるものだ。毎年ここで多くの新入生がこの学園での生活の厳しさ、洗礼を浴びて今の自分の甘さを思い知る。
「はは~、みんなぶっ倒れてるねぇ、、、見事に」
「そうだな」
走り込みの最中に隣からシュレイドに声をかけたミレディはまだまだ余裕がありそうな様子で並走する。
「はぁはぁ、まだまだこのくらいなら私だって~。」
反対側からメルティナが息を上げつつもしっかりとついてくる。
「お、メル!! その意気! ファイトだよ!!」
「う、うん!! ミレディ! ありがと! 負っけないよ!」
応援するミレディアと食らいつくメルティナが速度を上げてシュレイドをぐんぐんと引き離していく。
シュレイドがそんな背中を眺めていると二人に速攻で追い抜かれフラフラと前を走る人影が視界に入る。おそらく周回遅れであろう男子生徒なのだろう。その人影の背中にシュレイドもだんだん近づいていく。
なんだか昨日の夜に見たことがあるような後ろ姿であったが、シュレイドは気付かないふりをして追い抜いていこうとする。
しかし並走状態になり、今にも追い抜こうかというタイミングでその男子生徒がシュレイドに唐突に声をかけてきた。
「ぜぇはぁ、しゅ、シュレイドぉ…いい、タイミングだ、ぜぇ、はぁ」
「え?ああ、フェレーロ…なんだ、お前だったのか。んじゃ、お先!お前もがんばれよ」
シュレイドはさも今気づいたかのようにわざとらしく返事をした。
会話を一人で勝手に切り上げて心底話したくないという様子を全面に押し出して加速しようとした。
だが、その腕をひしっと掴まれてしまう。
「これは命の危機だ。助けてくれぇ。約束しただろぉ。死にそうなときに目の前にいたならば! 俺を助けると!! はぁはぁ!! 助けると!!」
「なんで二回言った? というか考えるとは言ったけど助けるとは言ってないぞ。約束はしてない。しかも、どう考えても命の危機とは無縁だろ。ただ走るだけだし」
「ばっか、シュレ、イドォ、お、おめぇ!! 走るという行為をなめんなよ!! なめんッッ…ゲホゲホォオ…ぐええ」
「だから何で二回言おうとするのお前?」
シュレイドは呆れた様子で返答する
「それはッッ、なァ!!」
シュレイドはしまった思った。返事なんかせずにさっさと行けばよかったのだが時すでに遅し。
「大事な事だからだよォオオオ、、ォォゴホゲホォォ!!」
突然大きな声を出し、乱れた激しい呼吸でぜぇぜぇと息をしながらフェレーロはよたよたとよろめいた。走りながら声を出すのだから呼吸が著しく乱れて苦しむのは当然である。こいつは凄くバカなのかもしれないとシュレイドは心の中で思っていたが口にはしなかった。
「そんだけ喋れる元気があるなら大丈夫だって。じゃあな」
そう言うと今度こそすぐさま加速してフェレーロを置いて走り去っていく。
「ちょ!!! そりゃないぜぇええ!!! うおぉ、は、はええよぉおお、、、まってくれえぇえええシュレイドォォオオんんんん!! ッッまってくれえぇえええってばぁああシュレイドォォオオんんんんゴホゴホゲホゲホブファーーーーー!!」
気持ちのこもっていない形だけの応援をして軽く加速したシュレイドはフェレーロを置いてけぼりにしていった。
遠くから恨みつらみのこもった呪詛のような声が咳き込みと共に聞こえていたかと思えば、その直後に息切れしひゅーひゅーと鳴っている呼吸音が聞こえ、そして徐々に消えていく、最後にシュレイドの耳に入ってきたのはかすかに『誰か』が倒れる音だった。
とりあえずあいつは放っておいていいだろ。シュレイドはそう思った。
続く
作:新野創
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