見出し画像

「生き地獄」を甘受する覚悟

「ノブレス・オブリージュ」は過酷なのか

 戦前の日本では大元帥となる天皇をはじめ、多くの皇族が将官に任ぜられました。英国でも貴族や王族が軍人になる事例は多く、それは「ノブレス・オブリージュ」に基づくものだと言われています。そして軍人となった皇族、貴族、王族が最前線への派遣を申し出る事例が多かったと聞きます。これは、自らの立場を自覚してより過酷な義務を負うことを求めたとも考えることができますが、私は別の感情もあると思います。皇族、貴族、王族が軍人となったとしても、その立場に配慮して最前線に向かうのは別の部隊が担当することも少なくなかったと思いますし、戦闘においても他の将官と比較しても万が一にも戦死したりすることのないように配慮されていたと思います。そして、彼らの命を守るために周りで多くの人が戦死していたはずです。そのように自分の命を守るために周りで多くの者が命を落とすという状況に耐えられずに最前線への派遣を申し出たということもあったと思います。
 似たようなものとして、国の大統領や首相などの政治のトップが軍隊などに命令する事例があります。彼らは時として軍隊などに死地に向かえという命令を発することがあるわけですが、政治のトップは決して戦地や最前線で命を懸けて戦うことはありません。そのような状況から特に左翼が「戦争に行かない者が戦争をしたがる」と批判するのをよく目にします。ただ、その批判は物事を一面からしか見ていないと感じています。なぜならば、自分の命令で多くの人が死に、自らは死ぬことも許されずに政治のトップとしての職務を遂行していかなければならないからです。おそらくそれは「生き地獄」というものでしょう。そして、「戦争に行かない者が戦争をしたがる」などという底の浅い批判を人の感情を理解しなければならないはずの作家などが同じようになしているのには閉口します。そのような「生き地獄」と比較して最前線で命を懸けて戦う「ノブリス・オブリージュ」のいずれが過酷なのか比較するのは非常に難しいと思います。

新型コロナワクチンの国会議員優先接種を見送る自由民主党と立憲民主党

 令和3年5月26日、自由民主党と立憲民主党の国会対策委員長が国会議員を対象とした新型コロナワクチンの優先接種を見送る方針で合意しました。

自民党の森山裕、立憲民主党の安住淳両国対委員長は26日の会談で、国会議員を対象とした新型コロナウイルスワクチンの優先接種を当面見送ることで合意した。安住氏が記者団に明らかにした。同氏は「今、国民の理解はとても得られない」と指摘。民間企業などでの集団接種が全国的に始まって以降、秘書や国会職員を含む形での実施を検討すべきだとの認識も示した。

 国会議員は国権の最高機関である国会の構成員であり、国会議員の健康は国の運命を左右するともいえます。国民の理解が得られない程度で国会議員のワクチン優先接種を見送る自由民主党と立憲民主党は国を左右する権限を与えられた者としての覚悟が足りないのではないでしょうか。国民の理解が得られなくとも、仮に国会議員に優先接種したことで接種が間に合わずに死亡する国民が発生したとしても、その国民の怨嗟の声を甘受し、万が一にも新型コロナウイルスによって死ぬことが許されないともいえる自らの立場を自覚してより多くの国民を救うために優先接種に踏み切るべきだと思います。