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『土方巽全集』土方巽 | 河出書房新社

写真は私の初代『土方巽全集』で、いつぞやの誕生日に両親から贈られたものになる。装丁と内容に惚れたあまり、ブックエンドに一冊だけ挟んで、当時働いていた職員室の机に飾っていた。初代と申しあげたのは、今私の手元にある同全集は二代目にあたるからだ。

五年前、私が理事長を継いだばかりのNPO法人読書普及協会のイベントで銀座ブックパーティーなるものを開催した。銀座の資生堂さんを貸し切ってやらせていただいたもので、装丁がお氣にいりの一冊をお待ちいただくことをドレスコードに含めた。

銀座ブックパーティーにて

その際、私のパートナーに選んだのが同全集であったのだが、司会やらトークやらしていたため、いつの間にやら土方巽は私に愛想をつかし、何処かに踊り去ってしまったのである。本は失ったり、譲ったりできるからこそ佳い。

兎にも角にも、あれから五年のあいだ、父の急逝もあり、私の裡の片隅にいつも『美貌の青空(同全集収録)』がそこはかとなく残った。二代目『土方巽全集』というのは、このような経緯になる。

本のなかには傍らにずっと置いておきたいが故に、知己に贈るものもあるが、結局はまたもとめて本棚に置く場合も多い。そのような中でも、私は短き全集によく惹かれる。読書体力がないのも大きいものの、やはりエスプレッソの文章が散りばめられているのが主な理由であろう。土方巽もそのようなひとりで、たった一文で他の一冊を凌駕する雰囲氣が滲みでている。

例えば、『美貌の青空』に掲載されたニジンスキー氏の日記について書かれた段落は一讀の価値がある。部分的に引用してみようか。

私が欲しいのはこの日記の中に告白された舞踏体である。一日に六度も「わたしは神である」と記している男の肉体に立ち寄ることで何の決着が得られよう。神は肉で、肉は病院に運ばれた。

「肉体に眺められた肉体學」

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私が棚に並べるのは、古風な日本人からたまたま譲りうけた古書ばかりで、元の持ち主が亡くなった方も少なくない。要は私の本棚で一時期お預かりして…

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