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【観劇記録】NODAMAP『フェイクスピア』@大阪新歌舞伎座

子連れ美術館のnoteですが、観劇記録も書いちゃいます。

NODAMAPの新作
『フェイクスピア』観劇。

真実の言葉と虚構の言葉。
舞台上で発せられるのは
通常は虚構の言葉だ。
誰かの頭の中で作られたもの。

しかしこの戯曲には、36年前の
ある「真実の言葉」が
丸々取り込まれている。

真実の言葉に圧倒され
虚構の言葉は弱いのか、と
自問する野田さんの姿が見える。

この戯曲は、26年間をかけた
野田さんの答えなのだろう。

舞台の内容をざっと。
落ちこぼれイタコ「アタイ」(白石加代子)の口寄せを同時刻に予約した二人、
アタイの元同級生で人生に絶望している自殺志願者「タノ」(橋爪功)と
箱を抱えた謎の人物「モノ」(高橋一生)が、恐山で出会う。

モノの抱えている箱はなんなのか?
そして、そもそもモノは何者なのか?
この謎を軸にストーリーが展開する。

シェイクスピアの四大悲劇や
サン=テグジュペリの星の王子様の台詞、
それからいつものコトバ遊びもたっぷりで、縦横無尽なNODAワールド。
野田さん自身は、シェイクスピアとその息子フェイクスピアとして登場する。(踊ったりラップしたり)

以下ネタバレあり。

ハムレットが父親の亡霊と出会うシーンの再現を経て、
実はモノはタノが子どもの頃に亡くなった父親であることが明かされる。

モノが息子に渡すんだと大事に持っている箱を、白いカラスが森に落とす。
箱を開けると
「頭上げろ!」
「がんばれ、がんばれ」という声が漏れてくる。
舞台上で一旦は、単に息子を励ますありふれた言葉か…と茶化される。
(でも「頭上げろ」ってなんだろう、普通は「顔上げろ」じゃない?という違和感はある)

そしてタノが箱を受け取り、それを開ける終盤のシーン。
音声と、その場面が舞台後方に展開される。

飛行機の操縦席に乗り込むモノ。

「なんか爆発したぞ」
「request return back to HANEDA」
「頭下げろ!」
「ハイドロプレッシャオールロス」
「ライトターン!」
「マックパワー、マックパワー」

日航ジャンボ機墜落事故のボイスレコーダーの言葉が
そのまま再現されている。

「あたまあげろ!あたまあげろ!」

そして、墜落の瞬間。

まるで本当に今、目の前で事故が起こっているかのような劇場の空気。
隣の観客の息を殺した嗚咽が聞こえる。

生きようと、最後まで戦った30分間。
自分が死ぬことを悟った最後の時間。
どれだけ息子の名前を呼びたかったことだろう。
あたま上げろ!あたま上げろ!

音声を聞き終わり、タノは言う。
「生きるよ。」と。
自殺を志願していた息子への
最期の贈り物として、
モノは箱の中の言葉を渡したかったのだ。
「生きるよ。」
その言葉を笑顔で受け止め、
モノは舞台を去る。

フェイクの言葉を操る野田さんが
死を前にした人々のリアルな言葉に圧倒されたのだ、とパンフレットにあった。
ボイスレコーダーの全文が公開されたとき、まるでお経のようだと感じたそう。これに対峙出来る戯曲をいつか書けないか、と思ったのだと。

そして、シェイクスピアからサン=テグジュペリ、ギリシア悲劇から自分の往年の言葉遊びまで。フェイクの言葉を総動員して、この戯曲を書いたのだ。

偽のコトバが垂れ流され、
本当のコトバの森の泉が尽きて
涸れていくこと、を
野田さんはとても危惧しているのね。

でも、「真実」から
更に想像・創造された「虚構」を語り、舞台は終わる。

言葉を使って、
真実から虚構を生み出すことで
生きていくことができる。

リアルからフェイクが生まれ、
フェイクからまたリアルが生まれる。
ふたつは渾然一体だと。
それこそが人間が生きていく力になるはずだと。

舞台を作ってきた者としての矜持を
野田さんが示したのだと感じました。
そして、後に続く者たちへのエールでもあるのだと。
舞台はナマモノ。
万難を廃して観に行けて良かった。

以下、戯曲を読んでのメモ
・白石さんが、冒頭と最後に「白石加代子です」と自己紹介して挨拶するシーン、舞台では(特にラストのは)違和感あったけど、虚構を虚構として強調するためのものだったのね

・モノの台詞、冒頭からボイスレコーダーの中の言葉がちりばめられている。「そんなのどうでもいい。」「頭下げろ」「両手でやれ」
出来れば複数回観たかった!

・白いカラスは飛行機の象徴。
「なんで飛び方してる。山だ、山にぶつかるぞ」ぞわわっとする。

・ウソ発見器、ホント探知機の意味は?
リアルとフェイクの混ぜこぜの強調という意味でいいかな? なんかもうちょいありそうな。

・飛行機事故の話だからサン=テグジュペリだったか…星の王子さまはちょっと唐突だなぁと鑑賞中は思った

・何度も出てくる「永遠プラス66年」
うんん??劇中では「永遠プラス36年」って言ってて、それなら事故が起きてからの年数だなぁと思ってたんだけど戯曲では66年になっている。なぜだろう…🤔

色々考え過ぎて長くなり過ぎた。
読んでくださった方(もしいたら)
ありがとうございます

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