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書籍の内容を他者・組織にインプット・インストールしやすくする方法

仕事に役立てる考え方、知識、教訓を得るために、みなさん日々さまざまなビジネス書を読んでおられると思います。書いてある内容から得たものを、みなさんはどのような形にアウトプットして、自分や関わる人々・組織にインプット・インストールしているでしょうか?このnoteでは、アウトプットにもインプット・インストールにも使える、一つのコストですべてをまかなう表現形式と方法を紹介します。

書籍の内容を他者・組織にインプット・インストールする

アウトプットの手段は色々ありますが、ここでは書籍の仕事に役立てる考え方、知識、教訓(これらをひっくるめて、ここからは「情報」と表現します)を得て、それを共に働く他者にも伝え(インプット)、得たものを組織として活用できるようにする(インストール)ことが目標です。インストールについてもう少し説明が必要です。組織に情報をインストールして目標実現のための行動を起こしやすくするには、インプット及びインストールの表現形式が、自分たちの目標を実現するために必要な要素を構造化して、実行のための設計図や地図としての役割を果たしている必要がありあす。この鍵を握るのが構造化です。

書物である以上、あるテーマのもとさまざまな情報をまとめあげていますが(構造化している)、書物に書かれていることすべてが自分の役に立つということはほとんどありません。そこに書かれている内容のうち、まず自分が必要とおもう情報を、書籍から必要な文脈や背景はセットにして「要素・素材」として抜き出す必要があります。
次に、自分たちの目標を実現するために、要素の関係性、順序、優先順位を整理して、全体像を明らかにします(構造化)。構造化されている情報からパーツを抜き出し、自分たちのために再度構造化するわけです。この再構造化を、作成・説明・理解といった認知コストを低くして行うための表現形式が「プ譜」です。プ譜はこのnoteでもお馴染み、未来の目標とその成功の定義から逆算して、目標実現に必要な要素と手段の関係性を表現するためのツール・表現形式です。
ここからは実際に一冊の書籍を題材に、プ譜でその内容を自分たちの目標に役立てるよう構造化した例を紹介します。

データ経営を行う参考に、ワークマンの書籍をプ譜化する

題材とした書籍は『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』です。本書は、私がプロジェクト支援している企業がデータ経営プロジェクトに取り組むための参考書籍として選ばれていました。

本書は、ワークマンの新業態開発、広告戦略、コロナ下での経営などについても言及されていますが、我々が必要とするのはデータ経営の部分です。全9章からなる内容のうち、主に第2章が対象になります。書籍の内容のなかから、自身の目的に適合する領域を設定します。

本の読み方としては、目次を頼りに読むポイントを絞り込んでいってもいいですが、第2章で書かれていたデータ経営の取組の成果が第7章に書かれていたり、成功のための重要な情報が第8章で言及されていることもあったため、基本的にはすべて目を通しておくことをお勧めします。「ここは関係ないな」と思ったらすっ飛ばしてかまいません。

自分たちの目標に大事と思われる部分に赤線を引いたり、付箋を貼ったりしながら、情報の分類をしていきます。分類は5つ(獲得目標、勝利条件、中間目的、施策、廟算八要素)に分けます。書籍を読み進めながら、付箋であれば「これは施策」「こっちは廟算八要素」と書き込んでおきます。もちろん、色で分けるのでも良いです。

右上に「中間目的」と書き込んでいる例

要素を分類しながら読み進めたら、読んだ内容をプ譜に落とし込みます。最初に行うことは「獲得目標」の記入です。私とクライアントの目標は、汗と熱意の経営から、データ経営へ移行することです。この目標に合致・適合する内容を、書籍のなかから探し出し、プ譜の右下にある「獲得目標」に記入します。本書では、土屋哲雄氏が掲げた中期業態変革ビジョンに、「2)新業態の開発 ①「客層拡大」で新業態へ向かう ②「データ経営」で新業態を運営する準備をする」とありましたので、「 ②「データ経営」で新業態を運営する準備をする」を獲得目標に記入しました。

次に、この目標を実現するための前提となる情報、所与の条件や保有している資産などを、プ譜の左端の「廟算八要素」に記入します。「八(8)」としていますが、取り組むプロジェクトの内容によっては6個でも7個でもかまいません。同時に、目標実現のための重要な「要素の状態」と、その要素の状態を実現するための具体的な手段を、それぞれ「中間目的」と「施策」に記入していきます。

廟算八要素と施策の入力は簡単です。この二つは与えられた条件や前提となる情報、実際に行った施策といった、書籍に記載されている事実情報だからです。インプットしてインストールしやすくする構造をつくるうえで重要なのが、実際に行った施策が、どのような要素の、どんな状態(中間目的)に影響を与えていたのかを明らかにすることです。

書籍の中では「〇〇のために、□□を行った」というような書き方をされています。〇〇が中間目的。□□が施策です。状態と施策が近い場所に記載されているものもあれば、ちょっと遠い場所に記載されているため、「この施策はなにに影響を与えたのか?」がすぐにわかりにくいものもあります。また文中に似て異なる要素の状態の表現がしばしば登場することもあるので、自分たちが理解しやすい、しっくりくる表現にすることも必要です。

そうして、施策と中間目的に該当するものを並べて、施策と中間目的の関係が明らかなものに線をつないでいきます。

施策と中間目的を線でつないだら、次に行うことが、中間目的の順序を整えることです。上から下でも、下から上でもかまいませんが、「Aという状態をつくらなければBの状態に取り組めない」といった要素間に順序がある場合、その順に中間目的を並べ替えた方が、インプット・インストールがしやすくなります。

本書では、データ経営できるようになるための「人材育成」と「データ活用」の大きく二つに要素を分類できました。データを活用できる人材がいて初めて、データ経営ができるという順番になります。このプ譜では下から上の方が、人材育成という土台のイメージが出せると思い、人材育成の要素を下に置き、データ活用の要素を上に置きました。

また、データ活用の要素間にも順序があります。店舗の「在庫数量が「見える化」されている」という状態があって、メーカーが「何をどのくらい製造すればよいか?」が予測でき、売れ筋製品を店舗に収めることができる。最適な在庫が確保されていて、売れ筋製品をすぐに発注できるシステムを開発していることによって、店長が感と度胸で商品を仕入れた商品が売れないという状況や仕入れに悩む時間をなくすという状態をつくることができる、というプロセスがあります。こうした順序・ステップは、書籍によっては「〇〇するための◇◇ステップ」という形でまとめられていることも多いので、ここも難しい作業ではないかと思います。
また、廟算八要素に記入した、会社が持っている有形無形の資産が、施策に影響を与えることも意識しておきます。

最後に、「勝利条件」を記入します。ここが書籍の内容をプ譜で構造化するときにもっとも難しいところです。勝利条件とはプロジェクトが成功しているときの指標や基準になるものです。書籍には目標は書かれていても、勝利条件が書かれていない・明確ではないことが多いです。本を読み進め、施策や中間目的を記入し、関係を整理していく過程で、「こうかな?ああかな?」と表現を考えます。プ譜の空いているスペースにいくつか候補を書いておくのもいいでしょう。本書では、最終的に「データを元に、商品の最適在庫を確保して、店舗から発注され続ける仕組みを構築できている」としました。

読書感想譜

これで、 『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』を参考に、自分たちがデータ経営を行うときの情報を、他者にインプットしやすく、インストールするときの設計図や地図としての役割を果たすプ譜の完成です。
書籍では約40ページ分の情報を、1枚で表現することができました。1枚で表現することで、データ経営を行うための構造・全体像がわかりやすくなります。

構造をつかむことができれば、条件が異なったとしても、代替手段を考えやすくなります。「ワークマンだからできた」とハナから諦めるのではなく、また、うまくいった手段だけを真似るのではなく、構造を構成する要素の状態に注目して、その状態を実現するそのほかの手段を考えるのです。例えば、予算に余裕があるものの期間が短ければシステムを外注し、その導入支援をコンサルタントに依頼するという手段を採用します。予算に余裕はないものの期間が長ければ、習得に時間はかかってよいので社内人材でも操作できる廉価なSaasを導入するという手段を取ります。社内に活用できる有形無形の資産があれば、それを間に合わせで使ってみるなど、手段の選択肢はいくらでもあります。

この書籍をプ譜にするアクティビティは、小学校から大学までのプロジェクト学習でプ譜を用いるときのトレーニングとして、漫画や伝記などを題材に行っているものです。学校現場では「読書感想譜」と呼んでいるのですが、ビジネス書の場合は「感想」というのとはちょっと違うので、なんと呼ぶかは決めていません。読書会のようにして、複数人が同じ書籍を対象にプ譜化して内容を見せあうのも楽しいです。ぜひお試しください。

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。