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渋谷事変をプロジェクトとしてとらえて構造化する ~プ譜の推論トレーニング

この記事は大学生や高校・中学生向けに提供しているPBL(Project Based Learning)の授業で、プロジェクトの仮説・計画を立てるときのトレーニングとして行っているものです。大人であっても呪術廻戦を知らなくても、他のマンガや映画作品を題材にして取り組むことができますので、良かったらこのまま続きをご覧ください。

なぜ、プロジェクトの計画を立てるのが難しいのか?

私はこれまで「プロジェクトの書 三部作」のなかで、プロジェクトを(超ざっくり)「未経験の、未知の、未来の目標を計画して実行すること」と定義してきました。この経験・知識がない、事例や情報が乏しいなか、目標実現のために何を、いつ、どのように、どれから、どの程度までやればいいのか?それは今の自分たちの条件や置かれている環境で行うことができるのか?といったことを踏まえて計画を立てることは容易ではありません。

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マニュアルや答えは予め用意されていないので、未来の目標を実現するために、様々な情報や道具、知識や技術をもった人材を素材として、推論する必要があります。なお、ここでは、このプロジェクトにおける推論を「目標実現のためのわかっていないことを、利用可能な情報や資源を“編集”して、こう進めれば成功するだろうという仮説を構築すること」と定義しておきます。

プロジェクトの推論は、未来の目標と、現在の自分たちが持っている、または用意・習得できる情報や道具といった条件との間に橋をかけることです。これをプ譜で表現すると下図のようになります。

プ譜シート

この目標と現状をつなぐものが、「中間目的」と「施策」になります。中間目的とはプロジェクトの目標が実現しているとき、プロジェクトに関わる人や物、機能やUI・UX、見た目や味、居心地や着心地といった、“要素のあるべき状態”のことです。施策とは、そうした状態を実現するために実行する具体的な行動・作業のことです。施策と中間目的は「する」と「なる」という関係性で、それぞれ「~をする」と「~になっている」という表現の仕方をします。

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プロジェクトの推論では、この「する」と「なる」をどう表現するか?がプロジェクトの成否を左右します。しかし、経験や知識がないと、どんな状態になっていればよいか?そのために何をすればいいか?ということを想像することがなかなかできません。
そこで、「する」と「なる」を想像するトレーニングとして、「する」と「なる」がわかっている、他者のプロジェクトをプ譜にするということをしている、という訳です。

渋谷事変をプロジェクトとして構造化する

対象とするプロジェクトはマンガ、映画、ゲーム、小説、競合他社事例など、なんでも構いません。ここでは『呪術廻戦』の渋谷事変を題材に、どのようにプ譜化するかをご説明します。

まず最初にプロジェクトを実行するための所与の条件を記述します。プ譜では「廟算八要素」にあたる部分です。

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ここでは偽夏油をプロジェクトマネージャーとして、メンバーに真人などの呪霊や呪詛師がいます。予算規模やビジネスモデルなどはわかっていないので記入しません。(他にも記述要素がありますが、細かい説明は記事末尾の動画でご覧ください)

次に目標と成功の定義を記述します。プ譜では「獲得目標」と「勝利条件」と言います。

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ここで大事なのは、勝利条件は「五条悟を殺す」や「宿儺を味方に引き入れる」ではないということです。勝利条件はあくまで封印。ここがプロジェクトメンバー間でズレると、プロジェクトの成功がおぼつかなくなります。(原作を読んでいる方は、宿儺を味方に引き入れようとした結果、どのようなことが起こったかをご存知のはずです)

他者のプロジェクトが推論の力を鍛えるいいトレーニングになるのは、「する」と「なる」のうち、「する」(した)ことが明らかになっていることです。する(した)ことが明らかになっていれば、する(した)ことがどのような状態になっていたのか?の推論のハードルが一段低くなるからです。マンガを読んでいけば、することがわかります。これをプ譜の施策のエリアに記述していきます。

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「する・した」ことは「どんな状態を実現するためか?」を推論する

施策を記述したら、勝利条件を実現するための諸要素の「あるべき状態」を表現していきます。これが推論するトレーニングになります。「する・した」ことは、どのような状態をつくりだすために実行されたのか?を考えます。渋谷事変はここも描かれていましたが、世の中に出てくるビジネス事例のほとんどはここが明らかになっていません。(※その意味では、一部始終を丁寧に描いている物語の方が、ハードルは低くなりますが、推論トレーニングとしての強度・難易度は落ちます)

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上図のように中間目的を書きだしたら、関係する施策と中間目的の間に線をつないでいきます。

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中間目的のなかには、「ある中間目的を実現しないと取り組めない中間目的」が出てきます。そのような場合は、中間目的間を矢印線でつなげばよいです。こうすることで、どの状態をどんな順番で実現すれば良いかもわかるようになりますね。

こうして渋谷事変がどのような要素・順番で成り立っているのか?という構造が明らかになりました。マンガやアニメなどから、実際のプロジェクトに役立つ教訓を引き出せるかどうかは、作品の内容やそれをつくる本人の感性やそのときの状況・状態によりますが、少なくとも推論のトレーニングになることだけは間違いありません。プ譜を書くトレーニングにもなりますので、楽しんで行うことのできるトレーニングとしてぜひお試しください。

この記事に書いた詳しい解説は下の動画でご覧頂けます。


未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。