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ベネッセこども基金×ニューメディア開発協会による2022年共同プロジェクト発表会vol.1レポート(2022年5月27日オンライン開催)※当日の動画も公開中

2022年5月27日、公益財団法人ベネッセこども基金と一般財団法人ニューメディア開発協会による共同プロジェクト「病気療養の子どもがアバターロボットで学校生活に参加し『笑顔』になる。学び、体験のモデル拠点校支援事業」の共同プロジェクト発表会をオンラインで開催いたしました。


2022年8月9日追記
大変ご好評をいただきましたため、発表会当日の動画を特別に公開させていただくことにしました。ぜひ、記事とあわせてご覧いただけますと幸いです。

https://vimeo.com/716443668/2e569ef975


当日は関連官庁、自治体、学校の教育関係者や保護者、学生など170名以上の方にお申込みいただき、共同プロジェクトの概要や、ベネッセこども基金とニューメディア開発協会の実績報告のほか、京都女子大学教授の滝川国芳氏のセミナーや、iPresence合同会社のクリストファーズ・クリスフランシス氏によるプロジェクトの実績についての紹介も行われました。

始めに開会のあいさつとして、ベネッセこども基金副理事長の福原賢一が、ベネッセの創業者である福武總一郎の「子どもたちは未来からの留学生」という言葉を引用し、「このプロジェクトが、様々な専門分野の方とともに、未来ある子どもたちの笑顔を増やし、未来をよりよく生きる取り組みにつながることを期待したい」と参加者に伝えました。


様々な形で子ども支援に知り組むベネッセこども基金

発表会は全三部構成で行われ、第一部ではベネッセこども基金とニューメディア開発協会から、共同プロジェクト発足の背景や経緯について発表いたしました。

まず、ベネッセこども基金の青木智宏から、今回の共同プロジェクトにもつながる取り組みとして、2015年からの助成事業「重い病気を抱える子どもの学び支援活動助成」、2016年からの自主事業「分身ロボットOriHimeを活用した院内学級プロジェクト」、そして2020年度の助成事業である、「病気療養する子どもがいる自宅や病室と学校とをICT活用によって『確実につなぐ』学びの支援事業」の3事業を紹介しました。

自主事業として行った「分身ロボットOriHimeを活用した院内学級プロジェクト」

院内学級プロジェクトでは、分身ロボットを通して学びの体験が質量ともに増え、友だちや家族とのコミュニケーションも増加し、退院後の復学がスムーズになったという成果も得られました。
その結果、2021年度から東京都で予算化され、都立支援学校5校に導入されました。「しかし、一方で課題も生まれた」と青木は話し、「多様なニーズにこたえるには機器のバリエーションが必要であり、汎用的なツールもふくめて、学びの事例を増やしたい」としたうえで、試行錯誤を重ねた結果、専門家との連携の必要性を感じ、今回の共同プロジェクトに至ったという背景を語りました。

アバターロボット活用で「子どもの笑顔」を目指すニューメディア開発協会

続いて、ニューメディア開発協会で新情報技術企画グループの林充宏氏が登壇し、これまでの実績を紹介しました。1984年に発足したニューメディア開発協会は、社会課題を先進的なIT技術で解決することを目的とし、さまざまなプロジェクトの実証実験を行なっています。

2019年から取り組んでいる「アバターロボット活用による病気療養の子どもの学校生活参加」もそのひとつですが、林氏は「単にアバターロボットを学校に設置すれば子どもが笑顔になるというものではなく、様々方々の連携によりその実現がかなう」と、プロジェクトの難しさを伝えました。

ニューメディア開発協会の2020年度、2021年度の研究成果。多くの成果とともに課題も見つかり、成功事例を広めることの重要さを感じたという。

そこで、ベネッセこども基金のもつ子どもの学びに関する知見、そしてニューメディア開発協会のもつ最新のITを駆使した社会課題解決の実績、さらには両者の取り組みと実績をもとに、今回の共同プロジェクトに至ったという経緯を語りました。

この共同プロジェクトでは、これまでに行ってきた成功事例の継続的創出だけでなく、さらに将来を見据えた拡張事業としてメタバースの活用も検討しています。
林氏は、「一度も外に出たことがない子どもが、メタバース上のアバターを使って走り回ることができるようになる」という可能性も述べ、「メタバース空間では、自分のアバターを使うことで他の子どもたちと平等に参加ができる。好きな場所に行ったり走り回ったり、おしゃれをしたり変身したりといったことも可能になる」と伝えました。ただし、その際大切なのは「子どもが自分の意思で行うこと」であるといいます。


「病気の子どもの教育」をテーマにした京都女子大学教授の滝川国芳氏講演

第二部では、まず京都女子大学 発達教育学部 教育学科 教育学専攻教授の滝川国芳氏による、病気の子どもに関する教育制度や社会的背景、子ども自身の心理などをテーマにした講演が行われました。

病弱教育をはじめとした特別支援教育や、ICT活用による教育支援などの研究を行っている滝川氏は、病気の子どもたちの社会的背景について「日本には病気療養中の子どもでも教育を受けられる病弱教育(病弱・身体虚弱教育)制度が設けられている。病院に隣接する院内学校等を利用するには、前籍校からの転校手続きが必要である」と解説。

そして病気の子どもたちが抱える心理社会的な困難として、「治療や病気のつらさに伴う不安」「成長・発達にともなう自身の喪失や意欲の減退」「社会的経験の不足と、それによって生じるコミュニケーションの問題」などを挙げました。

さらに、学習の遅れによって、復学や将来への不安が生じる子どもも少なくないと言います。そうした不安を解消するひとつの手段としてICT活用を挙げ、実際にVRゴーグルを使って直接体験できない実験映像などを病室で視聴する事例などを紹介しました。
 
さらに、2020年に実施したベネッセこども基金の助成を活用した 「病気療養する子どもがいる自宅や病室と学校の教室とをICT活用によって『確実につなぐ』学びの支援事業」では、全国の33校の特別支援学校へ携帯型WiFiルータと通信SIMデータカードを提供したことで、自宅や病室から遠隔授業を実施できた多数の事例もあったと話します。

また、2021年度の「子供の復学不安軽減、病院内学校と前籍校先生の連携アバター利用」では、テレロボを介して前籍校の友人と交流することで、入院中の子どもの復学不安の軽減につながり、同時に前籍校の子どもたちにも病気の友だちを大切に思う気持ちが育まれたという成果も確認することができました。

自走移動するもの、コンパクトな机上タイプなど、さまざまなロボットを活用。

滝川氏は、これらの研究をふまえ、「2020年度からのコロナ禍によって、学校教育全体の遠隔授業が見直された。今後も運用が変わっていく可能性があり、各エリアの実情に応じて効果的な遠隔授業の運用を検討していきたい」と、展望を語りました。

共同プロジェクトのこれまでの実績とこれからの展望

続いて、ニューメディア開発協会の平出順二氏が、プロジェクトのこれまでの実績として、2020年から現在まで取り組んでいる「テレロボによる学校支援」について紹介しました。

テレロボとは、「テレポーテーション(あるいはテレプレゼンス)アバターロボット」の略で、このロボットを使い、病気の子どもたちが病室から学校の授業や校外活動等の学校生活に参加する支援を行っています。

その際、大切なのが「病気の子どもが、自分の意志で参加すること」と平出氏は強調しました。授業や休み時間の所謂“ワイガヤ”に参加したり、自分で見たいところを見たり、自由に移動したりするといった「自主性を得ること」が、子どもが笑顔になる大きなポイントだと言います。

そしてテレロボの運用については、「利用に至るまでのプロセスに様々な課題があり、課題解決の積み重ねが大切である」と、平出氏は話します。
「それぞれのプロセスに様々な方が関わっていて、前籍校の先生や友だち、家族、特別支援学校の先生、治療にあたっている医師や看護師の方々、メディカルソーシャルワーカなど、沢山の方に支えられて成り立っています。だからこそ、関係者をつなぎ、全体を取りまとめるコーディネーターの役割も非常に重要になってきます」(平出氏)

たとえば前籍校である学校への導入にあたっては、ITに苦手意識を持っていたり、アバターロボットに対して抵抗感を持っていたりする先生に対してサポートをしていく必要性を平出氏は話しました。そうした学校現場の先生にも抵抗なく使ってもらえるよう、できるだけ普遍的に簡単に使える取り組みを行っています。さらに、利用開始後は先生の要望に応じて、入院中の子どもの毎日変わる体調や気持ちを共有できる「体調・気持ちのチェック票」を用意するなど、プロセスごとの課題を解決し円滑に進めていくノウハウも蓄積しています。

入院中の子どもが、その日の体調や気持ちを先生に伝えられるチェック票。

プロジェクトを通じて得た成果やノウハウは、「テレロボ学校生活参加ガイドライン」に導入にあたっての使い方や効果としてまとめることで、成功事例のモデル化と発信に役立てていきます。
平出氏は、「日本が目指す『誰一人取り残すことない社会』への取り組みと連携し、病気の子どもたちの支援にこれらのガイドラインを反映していきたい」と参加者に語りました。


次にiPresence合同会社のクリストファーズ・クリスフランシス氏からプロジェクトの具体的な事例が紹介されました。2014年に設立されたiPresenceは、遠隔地に存在しながら空間を共有できるテレロボに特化した事業を行っており、教育分野においては、2019年からニューメディア開発協会とともに特別支援学校や病院の協力の元、さまざまな実証実験に取り組んでいます。

ロボットの遠隔操作インターフェースを追加した独自アプリ「Telepotalk」を開発し、テレロボ学校参加サービスを構築しました。

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iPresenceが開発した「Telepotalk」。チャットでスタンプを送ったり、ロボットの首を振ったりといった操作が、ひとつのアプリ内で小学生でも簡単に操作できるようになっている

クリストファーズ氏が紹介した複数事例のひとつが、院内学級があまり整っていないAYA世代(15歳~30歳)と呼ばれる高校生の復学をサポートする実証実験です。
この事例では、複数のロボットを使い分け、教室内の授業に参加するだけでなく、自走式ロボットで体育館に行ったりジョギングに参加したり、さらにお昼休みには食事をしながら友だちとコミュニケーションをとったりといった活動も行うことができ、学校生活全体を遠隔から行えることが実証できました。

さらに、実際にテレロボを利用した生徒と先生それぞれにインタビューを行い、学校生活やシステムに関しての良かった点や課題についても調査を行いました。
クリストファーズ氏は、「授業中にわからないことをすぐ質問できる」「学校参加している実感がもてた」「グループワークに参加できたときが楽しかった」といったポジティブな感想を紹介する一方、「通信環境によっては見づらく、聞き取りづらくなる」「慣れていないため、生徒への対応が十分にできなかった」といった課題も挙がったことを紹介しました。

2年間の実証実験によって、アバターロボット利用で解決できる点も明らかになってきた。


参加者からの期待の言葉も寄せられました!

第三部の質疑応答では、特別支援学校や大学、保護者、大学生など、病弱教育に関心のある参加者から、発表会の感想や質問が届きました。
「自分の居場所があれば救われる」「病児だけでなく、不登校支援にも広がりができるとよい」といった意見の他、実際に病室からオンラインで高校の授業を受けたことで卒業できたという大学生の方からは、「大変興味を持って聞いていた」という感想も寄せられました。

「教室でアバターロボットを使った際、院内の子どもが、他の児童の思わぬ本音を拾ってしまう可能性があるのでは?」という質問には、「テレロボの利点は、教室内に存在していることで、他の児童生徒は自然とネガティブな発言を言わない心理が働くこともある」としたうえで、「とはいえ、先生が子どもたちとコミュニケーションをとって、そのような問題が起こらないような意識あわせをとる必要がある。実証実験を通してガイドラインをつくっていきたい」(クリストファーズ氏)という回答を行いました。

最後に、ニューメディア開発協会の理事長である永松荘一氏が「病気療養中の子どもたちがテレロボやメタバースの技術を使って、当たり前のように学校生活に参加できる社会をぜひ政策にも盛り込んでいきたい」と語り、発表会は終了しました。

2時間にもわたる発表会でしたが、ポジティブなご意見も多数いただき、参加者の方々がアバターロボットを活用した学校生活支援について関心を持ち、多くの期待も感じることができました。
これから、モデル拠点校とともにさらなる実証実験を重ね、子どもたちが笑顔になる成功事例を継続的に創出していく取り組みを行っていきます。

次回は、2022年11月にプロジェクトの中間報告会を予定しております。事前にプレスリリース等で報告会の告知をいたしますので、ご興味・関心のある方は、ぜひ今後の報告会にもご参加ください。

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