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学校と病院つなぐアバターロボット——心温まる、子ども目線でのアバターロボット学校生活参加活用実践事例1

治療中の子どもたちが学校生活を続けられるよう、アバターロボットを使った実践が広がっている。とはいえ、その使われ方はさまざまだ。なぜなら、子どもたちの体調や個性、病院や学校の体制も一様ではないから。では、どのような実践が広がっているのだろうか。2023年12月、実践を発表し合う「心温まる、子ども目線でのアバターロボット学校生活参加活用実践事例」が開かれた。発表された事例からその一部を紹介したい。(笹島康仁)

各校の事例はこちらからご覧いただけます。


アバターロボットで授業をつなぐ

「難しいのは、1週間単位の入退院を繰り返すケースです」

そう語ったのは、沖縄県立森川特別支援学校の教員だ。同校は、病弱教育に特化した特別支援学校。「(退院して)原籍校で1週間勉強した後、(病院内の)こちらに戻ってきてまた1週間勉強するときに、どうしても授業の『つなぎ』がうまくいかなかった」と話す。

アバターロボットをどう活用したのだろうか。

入退院を繰り返すある小学3年生がいた。学校は、この子どもが原籍校の授業を遠隔で受けられるよう、原籍校にロボットを設置。原籍校の授業も継続して受けられるようにしたことで、学習内容のつながりを維持できるようになったという。

特徴的なのが、病院にいる時だけでなく、一時退院中にもアバターロボットを利用できるようにしたことだ。治療中の子どもたちの多くは、退院中でも体調不良で登校できない日がある。しかし、そんな時にもアバターロボットを使えば、自宅から遠隔で授業に参加できる。

発表した教員はこう話した。

「病院と自宅のどちらからでも原籍校の友達と一緒に授業ができるようになり、学習場所の選択肢が広がった。今後もこのようなケースが増えるのではと感じています」

森川特別支援学校は、病院にいる時だけでなく、一時退院中にもアバターロボットを利用できるようにした

こうした変化の背景には、医療の進歩がある。

同校の実践にコメントを寄せた京都女子大学発達教育学部教育学科の滝川国芳さんによれば、現在は長期にわたる治療が必要な場合でも、その間ずっと入院するのではなく、入退院を繰り返しながらの治療となるケースが多い。ただ、「法律のどこにも書いていないのに」、病院内の学校への転校手続きは2カ月以上かかるという「暗黙の日数」がある場合があり、入退院をしながら治療をすすめている子どもたちの妨げになっているという。

滝川さんは言う。

「医療の進歩に教育制度が追いついていない。いかに柔軟に学校生活に参加できるようにするかが大事です。そのために、アバターロボットを含めたICTの活用が非常に有効だろうと思っています」

教室以外の学びもつなぐ

 子どもの「学びの場」となる学校生活は、教室での授業だけではない。この日はさまざまな学校行事への参加事例が次々と発表された。

例えば、同じく森川特別支援学校では、文化祭でもアバターロボットを活用した。文化祭直前に入院した小学4年生が、文化祭のリハーサルに参加できたという。

文化祭本番の日は体調不良のために参加できなかったが、発表した教員は「文化祭の雰囲気を味わうことができた。アバターロボットが動くことで、そこに本人の存在を確認でき、みんなと一緒に授業ができている感覚を持てた気がします」と話していた。

森川特別支援学校の実践では、文化祭の会場の雰囲気を体験することができた

京都市立桃陽総合支援学校は、分教室に在籍する子どもたちの作品も含めた鑑賞会をアバターロボットを使って開催した。自分で好きな場所から、好きな角度で鑑賞できる点が好評だったという。

桃陽総合支援学校はアバターロボットを使った作品鑑賞会を開催した

同校は、昨年もこの鑑賞会を開催した経緯がある。発表した教員によれば、その時に喜ぶ子どもたちの姿を見て、教員間での理解が広がったという。

「1年目は戸惑う教員もいましたが、継続していくことで、アバターロボットを知っている教員と子どもが増え、雰囲気が変わってきた。子どもが食いついて喜ぶ姿を見て、『これはいい取り組み』となっていく。今年度は私が提案する前に『今年度はどうなるんですか?』という問い合わせがありました。子どもが喜んでいる姿を目にする先生を増やすことが大事だと思います」(担当教員)

このほか、教員同士でのメタバース体験イベント(秋田県立秋田きらり支援学校)や在宅の子どもと学校をつなぐ企画(同校)、校外の見学活動(鳥取県立鳥取養護学校)、リモートワーク体験(茨城県立水戸高等特別支援学校)などの実践が報告された。

秋田きらり支援学校は、子どものメタバース活用に向け、まずは教員がメタバース空間の楽しみ方を知るために教員同士の体験会を実施した
同校では、在宅で訪問教育を受けている子どもと学校をつなぎ、友だちにプレゼントを送る企画も実現した
鳥取県立鳥取養護学校は、裁判所や美術館、市場など、校外学習でアバターロボットを活用した
水戸高等特別支援学校はリモートワークを体験。「対面で接客するよりも緊張した」「操作と同時に会話をするのは難しい」などという感想が聞かれ、リモートワークの面白さや難しさを学んだ

「アバターロボットで主体的な参加が可能になりました」と話すのは岐阜県立恵那特別支援学校の担当教員。重要なのが「自分で操作できること」だという。

「例えば、軽量なアバターロボットを使えば、さまざまな場所で校外学習を行うことができる。そのときに自分でカメラを動かせることが『とても楽しい』と子どもたちは言います。映像を見るだけでは受身な授業になっていましたが、自分で動かす、動かしてみるといった活動が授業への主体的参加を可能にしています」

運べるアバターロボットを使えば、車いすではいけない場所にも行くことができる

校内、教員の負担軽減のための利用も

アバターロボットの使い方は「学校と病院を結ぶ」だけにとどまらない。校内実習やテストの監督など、同じ校内で使われる実践が増えたのも、今回の事例発表会の特徴だった。

茨城県立水戸特別支援学校は校内実習で活用。大人が教室にいない、かつ、質問はいつでもできる環境を整えた。「卒業後の進路先のように、大人の目や手が少ないところを実際に経験することができました」と担当した教員は語る。

茨城県立水戸特別支援学校は校内実習で活用。卒業後を見据えて大人が教室にいない環境にした
水戸高等特別支援学校は、教員の負担軽減を目的にテスト監督にアバターロボットを導入した
恵那特別支援学校は授業参観を開催。子どもに気づかれないように、保護者らが普段の様子を見ることができるようにした

こうした実践事例に対し、「ICTの活用が特別ではなくなってきている」と語ったのがベネッセこども基金の青木智宏さん。

同基金は重い病気の子どもの学び支援活動への助成を2015年から続けてきた。継続してきたことで、教員の中からも取り組みが出てきていることが印象的だったという。

青木さんは事例発表会をこう締め括った。

「当初は『特別なICTの授業』でしたが、いまは日常になってきている。先生方の担い手が増え、工夫と熱意が発揮され、新たな事例が生まれています。子どもも変わるし、子どもを取り巻く状況も変わる。その子に合った環境に合わせ、あるものを組み合わせていく。そうして、その子に合った学びにアクセスできるよう、工夫を続けられたらと思っています」

治療中の子どもたちにとって、これまでは参加が難しかった授業やさまざまなイベントが「日常」になりつつある。次回はメタバースを活用した文化祭、生徒会選挙、お祭りへの参加など、さらなる発展を見せているアバターロボットの活用事例を紹介したい。

ベネッセこども基金の取り組み

ベネッセこども基金MeetUpは子どもたちを取り巻く社会課題を発信し、解決策について一緒に考えていくオンラインイベントです。今回は「アバターロボットやメタバースを活用した、子どもの『やりたい!』をかなえるモデル校の実践事例」と題して、病気や障がいを抱える子どもの学び支援の事例について詳しくご紹介しました。

ベネッセこども基金は、未来ある子どもたちが、安心して学習に取り組める環境のもとで、自ら可能性を広げられる社会を目指し、さまざまな活動を支援しています。

自主事業にも取り組み、2015年度からは分身ロボットOriHimeを活用した学び支援プロジェクトを実施。2020年度からは子どもと学級を確実につなぐためのネットワーク環境整備などを支援し、33校28事例の授業実践を行いました。2022年度からは「日常で使える汎用的な学び支援モデルの事例創出」を目指し、連携や成功事例報告会などに取り組んでいます。

共同事業に関するお問い合わせ

一般財団法人ニューメディア開発協会 新情報技術企画グループ
担当 平出、林 NMDA-SJG@nmda.or.jp
◎事例掲載URL https://avatar-tele-edu.com/example-list/
◎連絡先  NMDA-SJG@nmda.or.jp

※共同事業や今回の事例に関するご意見・ご質問等は、上記のニューメディア開発協会までお願いいたします。各学校へのお問い合わせはご遠慮ください

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