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1人酒場飯ーその34「肉を喰らえ、罠に赴くまま」

 子供が好きな食べ物で票を集めるメニューは何だろうか。カレーや唐揚げなど定番のメニューが上がると思う。その中でも根強い人気を誇るのはハンバーグだろうか。

 実にハンバーグという食べ物は子供の心を捉えている。あの形なのか、それとも味なのか。あの円形の世界にはロマンが詰め込まれている。いいじゃないか。

 だが、僕が出会ったのは今までのハンバーグという文字列の中には存在しなかったある意味で『想像外』な存在だった。

 その日、神保町のホテルに籠り参考書を片手に知識を詰め込んでいた。

人生死ぬまで勉強だ、と良く言うものだ。どれだけ世界には学ぶことがあるのだろうかとふと考えてしまう。まあ、酒場飯も一つの勉学なのかもしれないし、それは自称なのかもしれない。

「このへんでいいか」何時間経ったかさえ分からないが事前準備はこれで万全というところまで来た。

読み返した参考書とずらりと文字を書いたノートをそっと閉じ、軽く背を伸ばす。

腹が減っている。

それはそうだ、気づけばもう夜の20時過ぎ。明日のために景気付けに行くか。どうする、何を喰う。そう、景気づけには肉だ、肉を喰え。力を付けたきゃ肉を喰え。心は決まった。

裏路地に位置するホテルからするりと抜け出し、神保町へと繰り出した。路地裏、何処で喰う。するとすぐに十字路でピンとくる店が目に入った。レンガ風の西洋チックな店構えであるが入口にでんと描かれた肉の絵。

引き寄せられるように外に出ているボートを覗くと、『黒毛和牛レア塩ハンバーグ』の文字が目に飛び込んできた。

胃袋が騒ぎ出す。ここで決まりだ。

まさに待ち構えていた罠に捕らわれるように僕は明るい店内へと吸い込まれていった。

店の名前は『肉の罠』。文字通りだ。

吸い込まれた僕は丁度ど真ん中のテーブル席に陣取っていた。店内を見ればどちらかといえばワインバーに近い感じだ。しかし、白塗りの無機質感の壁がむしろ良い。

メニューを見ればまさに肉づくし。牛の部位ごとのメニューや生ハム、アボ豚なる道のブランドの豚肉のメニューまで幅広く存在している。肉バル、肉居酒屋の面目役所だな。

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心が赴くままに選んだメニューはもちろんレアハンバーグを軸にした力業だ。アポ豚の醤油鉄板焼、赤もやし、ガーリックバターライスのラインナップ、我ながらストロングスタイルだ。

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このラインナップに合わせる酒は群馬の酒『谷川岳』。実にすっきりとした薫り高い日本酒で、肉の脂の味をサラリと受け止めてくれる味わいだ。ワインメインなのに日本酒を頼む暴挙かもしれないが、それはそれ。人は人。僕は僕だからいいんだよ。

アポ豚の醤油鉄板焼きが香ばしい臭いを漂わせて運ばれてくる。

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見事なまでの鉄板焼きだ。何ともいいではないか。皿に盛られてくるのと鉄板で運ばれてくるのではまず大きな違いがある。それは温度だ。こういう一品は熱々の中を豪快に噛み切って食べたほうが美味いんだ。

さて、アボ豚は実に肌理が細かい。繊維と繊維がみっちりと絡み合い、旨味が閉じ込めらているのが見ただけでわかる。

先に来ていた赤もやしのピリ辛で胃袋を盛り立ててから豚へと繋ぐ。

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醤油の香りを鼻で楽しみ、肉を噛む。ううん、これは旨味重視のいい肉だ。噛みしめれば噛みしめるほど肉の旨味が溢れてくる。それを谷川岳で受け止めてやる。くぅ、流石にやられたぞ。腹の底から力が湧き出すようだ。

そこへ赤もやし。シャキシャキ、ビリっとした合わせ技で味覚がゼロ地点へ戻る。箸が止まらない。

ああ、この時点で肉の魔力に捕らわれていた僕の前に再び罠が落とされた。鉄板に乗せられてきたのはいい具合に焼き目のついた大ぶりのハンバーグ。ソースなどない、レア塩ハンバーグだ。

本丸ハンバーグに胸がときめく。いつでも心は幼少に帰れるんだよ。

では、さっそく箸を入れてやる。そして、中を覗き込む。

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断面はレア、まさにレアそのものの赤が待っていた。なんと比例する美しさだろうか、惚れ惚れしてしまう。箸が、ナイフがスッと入ってしまうその柔らかさも芸術の域だ。

では、早速行ってみようか。一気に加速した期待値は口の中で最高潮に盛り上がっていた。見ただけで美味いものがそのラインを遥かに上回ってきた。

絶妙なレア加減に焼かれたハンバーグは口の中でホロリと崩れていくが、それと同時に牛の旨味が溶け出してくる。これはやられた。肉汁のジューシーさではなく、旨味のエキスが濃厚なのだ。これは凄いものに出会ったぞ。

そこへガーリックバターライスで追い打ちをかける。

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ニンニクガツン。ガーリックライスは鉄板焼き最強の飯ものだ。一気に押し寄せる罪悪感をライスと共にかきこんでいった。

会計を済ませ、再びシャバへ出る。この罠は一時の夢だったのか。いや、現実だった。これで活力も付いた。

さてホテルに帰って、さっさと眠りに堕ちようか・・・。

今回のお店

肉の罠
住所 東京都千代田区神田神保町1-34-24 越路第3ビル1階
お問い合わせ番号 03-6884-1110
定休日 日曜、祝日
営業時間 ランチ 11時30分〜14時(ラストオーダー13時30分)
     ディナー 17時〜23時20分(ラストオーダー22時30分)


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