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1人酒場飯ーその24 金沢出張編1「穴場酒場でノドグロ、思うまま。居酒屋とと家」

石川県金沢市、北陸能登の中心地である歴史の街。

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 兼六園、金沢城、野村家の武家屋敷を始めとした歴史遺産と古い通りを活かしたひがしやま茶屋街の観光通りに、金沢の台所である近江町市場などの庶民文化を混ぜ合わせた有数の歴史街だ。


 もちろん、呑み屋も多い。金沢と言えば金沢おでんに寿司、はたまた隠し種でハントンライスなる洋食も存在しているグルメの街でもある。

 どれもかなりレベルが高い、食文化の幅広さも魅力の一つだ。そんな呑み屋街の中でも駅から少し離れた場所に多くの飲食店が軒を連ねる香林坊がある。名店ももちろん多いし、どこもそそられる店ばかりだった。


 待ちわびた金沢の夜。僕はと言えば駅前行きのバスに揺られていた。香林坊?昼に見てきたよ。

 大体裏手まで見て回ってきて目星はつけたが、どうしても反対の行動をとりたくなるのが僕の性。


 きっと駅前の裏通りには観光客は気づかない灯台下暗しの店があるだろうと様々な場所を歩いて肌で感じてきたわけだ。外れれば大人しく香林坊へ行こうか。


 そんな考え事をしながらバスから降りると、暑い空気が肌に触れ、汗が流れていく。暑い、暑い、予定を投げ捨てて、挫折してしまいそうだ。だが、腹の虫は収まってくれない。店を大人しく探すか。


 金沢駅前の信号を通り、表を歩いていく。すると目論見通り通りがあるのを発見した。

 「金沢駅前別院通り」ねえ。なんとなくしっぽりした雰囲気で、眺めてみるに個人店の空気がいい。

 この通りに狙いを絞ってみるか。満遍なく通りの左右を眺め、今自分が食べたいものを品定めしていく。

 居酒屋?焼肉屋?町中華?そんなことを思いながら通りの3分の2を通り過ぎていた。あれ、どうする?


 何かなかったら暑い中の移動だぞ、それだけはしんどい。ちょうど日本酒バーがあった、ここにしようか。と入ろうとして気づいた。

 ちょうど隣に僕の好みに刺さる店があった。

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 おお、味のあるくすんだ木玄関と魚の看板、求めていた正統派があったのだ。
ここが今回金沢で見つけた隠れ場「居酒屋とと家」である。カウンター8席ほどと小上がり2つの狭き店。だが、僕はここにして良かったと思う。

 
 L字の木テーブルの角の位置に座り、黒板のメニューと木看板のメニュー、そして酒が入り高めのテンションで話す地元のお客と、小上がりのサラリーマン、ちょっと想定外の若い女の子2人組へと目線を移していく。店主さんも話に入ったりしているその様は酒場では愛おしい。


 天井からぼんやり下がるライトに照らされながら、何の銘柄を頼んだかは忘れてしまったが日本酒とお通しのナスの乗ったミニそうめんを啜りながら注文したものを待つ。

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 しかし、お通しって玉手箱だ、何が出てくるか分からないのがいい。うん、そうめんいいのど越し。


さて、僕の注文した料理を順で追って語っていこうじゃないか。まず、一番手で出てきたのはがんどの刺身。がんどとは一体何なんだろう、そう思う方もいらっしゃるかもしれない。関東でいうところの「ワラサ」。つまり脂の乗り始めたころの若い鰤という事だ。

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 しかし、ピンクかかった身と脂の艶がとても美しいだけでなく、奥の深い鰤の淡白さと丁度それを濁し切らない澄んだ脂の溶け方のバランスが良い。これ、鰤より美味しいかもしれないぞ。凄くいい。


アスパラとベーコンのバター醤油炒めも頼んである。バター醤油の焦げた香りの誘惑はなんて暴力的なんだ。太めのアスパラ、甘い。炒めてあるけど太い存在感と負けない甘味、そこへベーコンの塩目のコントラスト。飯も、お酒も進んでしまう、悩ましい。

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刺身に行ったら次は焼き物を食べたくなる。狙いは絞っている、黒板のメニューに堂々と書かれた「のどぐろの塩焼き」の文字。腹は決まった。

 最後のメインはのどぐろ君だよ、金沢だよ?食っておかないと。


 とりあえず頼んでいた和牛ステーキをレアの焼き目にニヤリとしながらほおばる。

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いや、肉肉しい肉だ、噛むと牛肉の味がはっきりしている、レアだ。美味くて力強い。金沢の居酒屋でなぜかステーキを箸で食ってる今、気分が高ぶっているぞ。


 そして最後はもちろん、のどぐろ!

 いい焼き目にジワリと脂、いや、これは絶対に美味い。香ばしい皮を破って身をつつく。うお、フワッとした食感なのに味が濃い。身の味が上品な白身魚の味を凝縮させた美味さが舌を刺激する。

 刺激された舌が感じるのは絶対的な旨味と魚の純な脂、誰がこの王様に勝つことが出来ようか。いやあ、最後の最後で凄い物を喰わせてもらったものだ。骨の周りの身を限界までしゃぶりついていく、ああ、最高だ。


 僕を圧倒させたのどぐろはいつの間にか綺麗に消えていた。夢中で食べすぎた。日本酒をグイっと呑み切り、会計を済ませる。


 そして、大衆酒場の灯りを背中に静かに店の扉を閉める。金沢の夜、夢のひと時か、それとものどぐろのいたずらか。感銘を胸にはしご酒へと繰り出そうと隣の日本酒バーを覗くが満席で諦めざろうえなかった。


 まあ、いいとしようか。

 だが、もう少し深めに行ってみようかね。この夜を頭の中へと暑さとともに溶かし込んでまた灯りへと消えていく…。こうなればはしご飯だ。

今回のお店
居酒屋とと家
住所 石川県金沢市安江町19-7
お問い合わせ番号 076-262-0108
定休日 日曜、祝日
営業時間 17時~23時


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