見出し画像

1人酒場飯ー番外編ー「金沢茶屋街の角打で一杯」

 金沢の観光場所には三茶屋街がある。

 ひがし茶屋、にし茶屋、主計(かずえ)町茶屋街の3カ所だ。アクセス的にも非常に近くにあり古い街並みを見て歩きたい人達には是非お勧めしたいスポットだ。


 そうそう、茶屋街と言っても非常に観光客向けに路地を上手く利用しており、ここでのランチや買い物も自由に楽しめるようになっているのがポイントが高い。中でも歴史の古い甘味屋や雑貨屋の人気は凄い。

 僕が訪れた時もレトロな街並みを自由に行き交う今時の人の姿が何とも不思議にも見えた。


 だが、狭い路地に人がぎゅうと詰まっているのではなく、皆が皆この街並みに恋焦がれて居るようにゆったりとして歩いており、何となく時間の流れを感じないのは今も昔も変わらない形だと思う。


 さて、僕が観光地の事をお勧めするために書くだろうか?それはやはり違う。僕のこの記事の目的はひがし茶屋街にある一軒のお店、石川県の地酒の専門店の「ひがしやま酒楽」だ。


 ここは観光地にある日本酒中心の販売店だけあって多くの石川県内の銘柄の日本酒が揃っている。だが、僕がこれだけで記事にしようとするだろうか、それは違うぞ。


 そう僕が気になったのは大きな蜂の巣がある入り口と地酒専門銘店の表記、そして出ている案内板の呑み比べの文字。

 それに誘われて、中を覗いた時に立派な角打スペースがあったのだ。


 カウンター内の冷蔵庫に覗く沢山の地酒の瓶たち。これだけで心臓高鳴る、日本酒味わっておきたい、昼だけどちょっとだけなら・・・真っ黒な欲望が脚を運ばせた。


 ここのメニューはほとんど簡単なつまみ系であるが、何と言っても珍しい石川のお酒が並ぶのが特徴だろう。

 簡単なつまみからビーフジャーキーなる邪な干物を選び、日本酒を何にするか悩む。


 まずジャブとして選んだのは「聖賢」と言うここのプライベートブランドに近い日本酒だ。酒造元は天狗舞酒造さん、かなりポピュラーだ。

画像1

 綺麗に透き通った日本酒の香りは透き通っている、淀みが無い心地良さ。クィッと舌と感覚で味わっていく。うん、かなり洗練された味だ。バランスに調和の取れた後味が清流の穏やかな流れのように浮かんで引いていく。

 駆けつけのひとグラス目にはちょうど良いだろう。

 ビーフジャーキーを噛みながら日本酒を呑むたった1人の角時間。これが僕の時間。まごう事なき穏やかなる事、林の時間。


 さっと呑み終わり、次の銘柄をメニューで探していく。

 何か強烈なものはないだろうか。そこでグラス一杯の値段が1200円のとびきりの表示を見つけてしまった。

 これは、何だ?値段から入って銘柄へ目を移す。

 銘柄は「手取川」。これも知られている酒の一つだ。

 だが、それだけでなかった。

 1996年モノ。つまり、約20年モノの日本酒だ。コイツは・・・古酒(クースー)だ!こんなモノまでここで呑めるのか!今まで以上に気持ちが舞い踊っていくのが分かる。


 ちなみに古酒(クースー)とは沖縄の泡盛を年代で寝かせた物をクースーと呼ぶ。古酒としてはワインやブランデーも有名だが、日本酒の古酒とは恐れ入った。
 

これはもちろん注文すべき、時を超えた出会いに乾杯しよう。

 その想いに応えるようにグラスに琥珀のように時を刻んだ液体が注がれてきた。何と表現したらいいのだろう、美しくも儚さを感じる色合。

画像2


 口に含めば全ての日本酒への価値観が変わる。

 鮮烈にして、深淵の世界。一口の中に永い年月を隔てて構築された味の引き出しが押し寄せる。ウィスキーのような、チョコレートのような風味と苦味が丸みを帯びて解けていく。何とまあ、素晴らしいものよ。


 こう言うのはグッといくのではなく、どこぞのバーで1人静かに呑むハードボイルドが1番似合う。僕はハードでもないけれど。


 とにかく凄い経験をこの角打ちで体験した。

 お土産に聖賢をしっかりと確保し、もう夕暮れも近い時間の茶屋街を何だか自分まで渋い大人になったかのように後にするのだった。

今回のお店
ひがしやま酒楽
住所 石川県金沢市東山1−25−5
お問い合わせ番号 076-251-1139
休業日 不定休
営業時間 10時〜17時(角打は16時50分まで)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?