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福島県平田村の1人生ラムジンギスカン定食

 福島県いわき市から新潟県新潟市を横断するように結ぶ国道49号線。多くの山間部を抜けるルートであると同時に会津地方を抜けるために冬の間は通行止めになることが多い国道である。
 
 山間部が多いルートではあるが福島の主要な都市に数えられる郡山、会津若松を通ることもあり、日常生活には欠かせない主要道路でもある。

 ちょうどいわき市での用事があったため、そんな国道49号線をいわき市から郡山方面へと車を走らせる僕。昼も近いことがあり、もうそろそろ胃袋に何かを入れたいところ。

 国道沿いのこの道は必ず当たりの店があるはずだ。

 流れる景色と前方を注意しながら店を探す。〇〇ドライブインという文字列のお店が数軒目に入ってくるが、目に入った瞬間から数秒でここは違うかなという答えを導きだしていく。ドライブインの渋さもいいが、食堂の二文字が今日はそそられる気分だ。

 ちょうどいわき市から平田村に入ったころ、道の駅の先で気になる看板を目にした。食堂の名前にジンギスカンの文字。思わず右手を握りしめる。

 食堂でまさかのジンギスカン、これはそそられる。ここにしよう。車を少し先にある合同駐車場に停め、期待を胸に店へと向かう。

『ひさご食堂』。

 屋号はどこにでもありそうな屋号だ。だが看板で主張していたジンギスカンがあるのはただ物ではないだろう、藍色の暖簾をくぐり店へと入る。なかなか広めの店内と畳の席があって昔ながらの大衆食堂感がある。先客はマダム二人だけ、11時半だけあってまだ先客は少ないか。

 そして、入り口横にずらっと並んだ漫画、これだよ、これ、この漫画がいいじゃないか。いつも通り、一人ですという言葉をご店主さんに向け、返答を待つ。早い時間だからか、どこでもどうぞと言われるのは助かる。その言葉を受けて、僕は入口直ぐのテーブル席に腰掛ける、どうやらご夫婦でやられているようだ、凄く安心感がある。

さて、メニューを眺めるとしよう。

大衆食堂らしいラーメンや丼物のメニューがあるが、定食は『生ラムジンギスカン』が上に来ている。他は目玉焼き定食、焼肉定食の3択。ジンギスカン押しが潔すぎて気持ちがいいぞ、これにしてくださいとご夫婦が声を大にして言っているようだ。もちろん、この一点張りで勝負をかける。

すぐにメニューを決めて水を呑みながら畳のTVをぼんやりと見つめる。店内は徐々に地元のお客さんでじわりじわりと埋まっていく。先に来ていたご婦人さんたちのテーブルに鉄板が準備されると同時程にご主人が僕のテーブルに新聞を持ってきて広げ、どこからかガスを代車で運んでくると手早く盛り上がったジンギスカンの鉄板を準備する。

あとは鉄板が温まり、ジンギスカンが来るのを待つだけ。ふと他のテーブルはどうかと思って目線を動かすと驚くべきことに全員がジンギスカンの準備をされているではないか、この一択は大正解だったか。

おお、目線の端にご主人が大皿を持ってきているのが見えた。来た、来た。大き目の丼の白飯に、小鉢の沢庵、味噌汁に大皿に乗った十数枚のラムと野菜、これは良い眺めだ。生ラムの赤とサシのバランスがとてもよくて丁寧に仕上げてあるのが分かる。

まずは脂を鉄板の上に乗せ、満遍なく塗りつける。こうすることで焦げが付かないようにするわけだ。次にもやし、白菜、玉ねぎをどさっと一気に山型の頂点に広げてじっくりと火を通していく。ジンギスカンの食べ方は以前武蔵小杉で行った「どぅー」さんの手順をなぞるんだぞ、俺。

じっくりと火を通した野菜を谷へと落とし頂点を空けておくことでここで肉を焼く、そういう流れで行くのだ。1枚、1枚と肉を鉄板に乗せると香ばしい香りが鼻に来る、これでこそ背徳、昼から背徳感マシマシの一人ジンギスカンだ。レア程に火を通したらまずはそのまま行ってしまおう。

ああ、これは感動的にラムだ。あの武蔵小杉で食べたチャックロールに負けず劣らない素晴らしい柔らかさだ。若さ溢れる力強さと旨味が口の中で飛び跳ねる。驚いた、こんな上質なジンギスカンと山に囲まれた小さな町で出会えるとは…むせび泣きそうだ。

次は付けダレとの合わせ技だ。おろしタレのような感じだが食べてみればガツンとニンニクの辛味が濃いめのタレに負けじと強烈な一撃、地軸がズレたような味わいだ。これはヤバい、羊の強さにも負けないキャラクターだ。しかし、これだけのニンニクじゃ、人と会っても喋れないな。

忘れていたが谷に落としたモヤシでワンクッション入れておく。シャキシャキの歯ごたえが口を再び羊へと向かい直させる。ラムを焼き、野菜を食い、飯を掻っ込む。1人ジンギスカン、1人焼肉はたった1人の突貫工事だ、煙と、熱と、匂いに向き合うのだ。

何度食べてもこの生ラムの柔らかさは新鮮的に美味い、タレの応酬を白飯で受けきる。おっと、慌てながら焦げた野菜に頭を下げる。野菜を忘れてしまうとは、僕はいい指揮をとれないダメな司令官だ、だが邁進すべし。とにかく突き進むのだ。

一皿分を焼き終わって胃の調子を問う。まだ行ける、ならば…。

「すいません、ジンギスカン単品と半ライス、ください」これでやりたかったやつをしよう。メニューを見たときにビンビン来ていた焼肉丼(ラム)の文字の通りのやつを。
 
早速運ばれてきたラムの皿と半ライス、まずは先に野菜を焼いて食べてしまう。だが玉ねぎだけはしっかり焼いて半ライスへと敷き詰める。そして、ラム肉を目いっぱい焼いていく、さあ、さあ、レアで仕上げた肉をライスへ押し並べて上からつけタレをかけてやる。これで俺だけの特製ラム焼肉丼が完成だ。

一気に食らいつく。ニンニク効いてて、ラムの肉肉しさを目いっぱいにかきこめば力が湧き上がってくる。今の僕は獣だ、獣であることに何を女々しく思うことがあるか。最後の最後まで一気に飲み干して味噌汁で締める。いや、とんでもなく心が躍った昼飯だった。

いっぱい食べましたね、と会計の際、奥様に言われ美味しかったです。と返し暖簾をくぐる。マスクに反射してニンニクの匂いが登ってくる、まあ、気にすることなしでいいかな。じゃ、午後もう一仕事頑張っていきますか。

今回のお店
ひさご食堂
住所 福島県石川郡平田村大字上蓬田字大石8
お問い合わせ番号 0247-55-2091
定休日 月、不定休(月二回)
営業時間 火~日 11時~14時/17時~19時

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