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三男の家出。

家出時刻より遡ること、一時間前。

三男(3歳児)こと、ルイは機嫌が悪かった。

「帰るぞ~!」

の母の一言で付いてくる息子たちではない。

案の定、園庭開放だめだっちゅのに、園庭の隅の丘でズボンを黄土色にさせながら、丘を滑って遊んでいました。

手には、シロツメクサ。

毎朝教室の前のシロツメクサをルイが摘むので

もう、この園のシロツメクサは、絶滅危惧種と成り果ててしまった。

そして、よく見るとルイの顔には、薄茶色の土が塗られ、薄汚れている。

それが、ふらりと草むらに立ち寄ってつくぼるもんだから、なんだか一人自衛隊演習のようになっちゃって。

しまったな、迷彩色の服を着せればよかったな。

なんて、子どもの遊びを見守る母は、考えていました。

いやいやいや、見守ってちゃいけない。

こ汚なかろうが、犬のように噛みつく息子だろうが、母の言葉を無視する愚息だろうが、息子は、息子。

連れて帰らなければなりません。

という事で、うまいこと子どもの気分を盛り上げて、手をつないて降園するなんて、芸当持ち合わせていない母は、我が子をかっさらうかのようにして車に乗せ、帰宅しました。

まぁ、それで機嫌が悪い悪い。

午後4時30分。

最高潮に不機嫌なルイに追い打ちをかけるように、保育園で使った衣服が入ったビニール袋を渡し、

「これ洗濯機に入れて来て。」

とサラリと指示しました。が、

案の定スルー。

スルーっていいですよね。めんどくさいこととか色々スルーできたらなぁ。

「もう、ルイったら。洗濯機に入れてきなさいよ。」

なんて、前方を走る三男に、

よし!そのまま洗濯機へトライを決めてしまえ!

とまるでラグビー選手のようなパスを決めた母に対し、三男は、事もあろうか、逆に母にパス返しを決めました。

え・・・、あんた・・・味方じゃないの?

呆然とする母に彼は、ニヤリと笑い、そのまま母屋の方に走りこんで行きます。

そして、その母屋の勝手口の鍵を閉めた。


どぅえ~!!母屋に入れなぁいぃぃ。

私の実家なのに、生まれて3年ちょっとの男に締め出されたぁぁ。


我が家は、二世帯住居でして、母屋と隣接したところに住んでおります。

隣接したところに住んでいても、母屋の鍵を閉められたら入ることは、できません。

ってのは、当然だけれども、、鍵を閉められたのは、当然じゃないだろう。

あぁ・・・。息子が家出してしまった・・・。母屋に。

そして洩れる明りに何故だか明るい笑い声が・・。

そうか、母屋の祖父母が彼を歓迎したのだろう。

君は、もう安住の地を得たのだね・・。

と、勝手口から漏れ出す会話をくノ一のように盗み聞きしようとしていたら、

「何してるの母ちゃん。」

と声がしました。

あ、うちにもう二人、息子がいました。

というわけで、

午後5時。

母と息子二人の生活がスタートしました。

長男は、宿題。次男は、テレビ。母は、夕食づくり。

あれ、何だか楽だぞ。

夕飯前に、おやつだの、チャンネル争いだのが起こらない。

これは、楽だぞ。

なんて思いながら、

午後6時。

三人での夕食が始まりました。

次男「まだルイ帰ってこないの?」

長男「ご飯どうするんだろう。」

次男「心配だから、様子見に行ってくるよ。」

長男「そうだよ!やっぱりルイがいなきゃだめだよ!」

何故か使命感に燃えた兄弟が立ち上がりました。

そして、長男の目には、涙が・・・。

いや、お兄さん方・・・。彼は、きっと上手くやってるっすよ。

なんて、感動の兄弟に水を差すことは、出来なかったので、台布巾を振って見送りました。

数分後、熱く燃えた兄弟は、急速冷凍したようにさめざめと帰ってきました。

「ルイ、バナナ食べて、『トムとジェリー』観てたよ。」

「帰ろうって言っても、無視だったんだけど。」

あ、それ、彼が得意とするスルーってやつですよ。

と、とにかく熱い兄弟愛を裏切られた兄弟の悲しみを分かち合いました。

午後7時30分。

三男が帰ってきたら、ご飯を食べさせてあげようと御袋の優しさを詰めながら三男のお皿にサランラップをかけていたら、我が母がやってきました。

「ルイちゃんの、パジャマある?あっちでお風呂入るってきかなくて。」

ぬぁんだとぉ!まだ、居座るつもりかぁ!

と急いでしわだらけのパジャマを綺麗にたたんで渡しました。

よろしくお願いします。

仲の良い長男、次男ペア。2人となってさらなる結束力を高めている。

2人で仲良くお風呂、母1人で入浴タイム。至福の時。

と思いきや、

午後8時。

「たっだいま~。」

あ、あの声は・・・。

「あ、ルイ!まず、お母ちゃんに謝れよ!」

長男の叱責に、とことこやってくる三男。

「お母ちゃん、ごめんなさ~い。」

え、いや、謝られることもないんですけど、ってか、その謝り方、めちゃ軽くないですか。

「なんで、こんな長い時間、帰ってこなかったのさ?」

「え、だってね。トムとジェリーが観たかったから。」

ですよね~。トムとジェリー最高ですよね~。

というわけで、3歳児の三男は、度々家出をします。母屋へ。

彼は、家出しているという認識は、ないでしょうが、私の住む家へと帰ってくるときは、「ただいま~。」と言って、帰ってきます。

彼の中で帰る場所がある安心感が何かしら芽生えているのかなとも思います。

と、同時に、嫌なことがあると逃げる場所があるというのも覚え始めました。

これについては、如何せん。

今後の課題です。






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