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〈わが家の味〉20年来のチキンカレー

コロナ禍でスパイスカレーがブームだという。スパイスの調合をあれこれ楽しめることや、どうやっても失敗しにくいことがウケているらしい。

私もスパイスカレーは大好きで、かれこれ20年近く食べ続けている。初めて食べたのは小学6年生のこと。調理実習のメニューがなぜかスパイスカレーだった。

生徒同士で調理した楽しさも手伝ってか、そのスパイスカレーをすっかり気に入って母にリクエストするようになり、いつからか自分でも繰り返し作り続けている。

なかでもチキンカレーは特に頻繁に作っている。

いま世の中で流行っているのは玉ねぎ炒めをほどほどで切り上げ、火をかけてから小一時間足らずで仕上げるようなレシピだと思う。極端なレシピだと玉ねぎは一切炒めずにいきなり煮込んでしまうようなものもある。

あれはあれでサラッとした仕上がりになって楽しいが、私がもう何年も繰り返し作っているのは、山ほどの玉ねぎをこげ茶色になるまでしっかりと炒めてやってからカレー粉、ローレル、シナモンスティックを合わせて、そこにフライパンで焼き色を付けた骨付きの鶏もも肉とたくさんのトマト、1カップほどのヨーグルトを混ぜ合わせてから(この瞬間がとても楽しい)、鶏肉がホロホロになるまで弱火でしっかり煮込んでいく……といった調子のレシピ。玉ねぎをしっかり炒めると仕上がりにも焦げ茶色が強く出て、まず食欲をそそる。

もともとは名料理本「男子厨房に入る」シリーズに掲載されている大庭英子さんのレシピを読み返しながら作っていた。トマトの湯剥きやら膨大な材料の下ごしらえやらが作るたびに大変なのだけど、鶏肉とトマトのうま味に玉ねぎの甘み、カレー粉のスパイシーな香りが重なった仕上がりがいくら食べても飽きなくて、骨付きの良い鶏肉が手に入るとつい繰り返し作ってしまう。

このカレーを作るために鶏肉屋まで出かけることもある。別に鶏肉屋でなくてもいいのだろうが、チキンカレーは骨付きのもも肉を使うと味が一段二段と上がる。あいにく地元のスーパーでは骨付き肉は手に入りにくいから、わざわざ車で出かけることになる。

スパイスは殆どいつもS&Bの赤缶を使っている。東銀座・ナイルレストランの「インデラカレー缶」やアメ横・大津屋の「カレーパウダー」なんかも試したことがあるが、結局は赤缶に戻ってきた。香りはもとより、ターメリックの配合が控えめで茶色寄りに仕上がるところも赤缶の美点と感じる。

スパイスを自分で配合するともっと面白いのかもしれないが、刻んだり炒めたりで手一杯というのがこれまでの感覚で、そこは赤缶が優秀なのだから頼ってしまえばいいと今は思っている。

はじめてチキンカレーを作ってからおよそ20年、すっかりハマってますよと伝えたら先生は驚くだろうか。調理実習には家庭科の先生だけでなく、クラス担任のN先生も参加していた。カレーライスではなくわざわざスパイスカレーを作ろうとなったのは、こだわり派のN先生の企画だったのだろうと思う。

家庭科の先生を巻き込みながら普通でない授業を成功させるには、少なからず手間も時間もかかったはずだ。それでもこだわりを持って取り組む。調理実習に限らずN先生はそういう人だった。

仕事って何なんですかね、少し折れそうです、なんて話したら子どものころみたいに叱ってくれるのだろうか。N先生を思い出すときには、つい甘えたことを考えてしまう。

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