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Book.2 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)
読書記録の第2弾は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」。
2013年に発売され,話題になった村上春樹の作品。
私は元々,村上春樹さんのファンではなかったが,本作を読み終え,「村上春樹ワールド」の深みに魅力を感じるようになった。
〜Review〜
KODAMA的オススメ度:★★★★☆
『自らの感じている「色彩」と他人が感じる「色彩」には,しばしば隔たりがあり,その評価は一致しない。』というのは,真理であるように思う。
作中では,主人公「つくる」とそれを取り巻く登場人物の内面を巧みに描写しつつも,語り部は一歩引いたところにおり,一貫して物語を俯瞰している印象を受けた。
おそらくは,三人称を用いた文章がそう感じさせているのであろう。
「自分が見ているのは,世界のごく一部である」という真実を認識することはもちろん大事であるが,それ以上に「自らの自らに対する認識が,自らの価値観を強く規定している」ことを痛感した。
どうしても避けられなかった運命と,自らの知り得ないところで動いた出来事により,物事に不調和が生まれ,次第に負のスパイラルに陥っていく。
こうしたストーリー展開は,平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」などでも共通しているように思う。
「マチネの終わりに」では,偶然のすれ違いによる,ある意味での「思い込み」が2人の登場人物をそれぞれ悲観的な思考に導き,結果的に望まない未来を迎えてしまう事になる。
物語の内容は違えど,「日常の無意識」を意識的に描き出すこれらの作品は,多くの人が似た経験を抱えているからこそ,心に響く作品になるのかもしれない。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は,休日の夜に落ち着いて味わってほしい一冊。
力強いメッセージ性がある作品ではないが,自らの内面と照らし合わせて様々な方向へ思考を巡らす体験ができる。
表現方法などにより,好みの別れる村上春樹作品だが,主人公の心の動きや描写に通ずるところを感じ,私の心はぐっと掴まれた。
KODAMA