「大学無償化法東京藝術大学問題」


「はじめに」
2020年に施工される大学等修学支援法において、国は高等学校卒業後2年が経ってから入学した学生、所謂3浪以上を修学支援新制度(以下=新制度)の対象から外した。外した結果、多方面で物議を醸し出した。

物議を醸したのは他にもある。2019年の東京芸術大学(以下=芸大)の授業料の値上げだ。

芸大の授業料値上げの件はすでに日本中に広く知れ渡っている。私の周りでも周知されているが、但しこの周知に私は気味悪さを感じる。それは内情が全くわからないからだ。いつも通りであれば学生に聞けばある程度はわかる。しかし今回に限っては何も聞こえてこない。

新制度の支援に3浪以上が外されたことは学生にとって、我々OBにとっても無視できない非常事態である。一般の殆どの学生は何とかやり過ごせるだろうが、芸大については多浪が多い為、制度の壁に狭間れ受験を断念する浪人生が出てくるとも限らない。少なくとも受験生の中には今頃大きな不安感を抱いている人がいるだろう。

現役の芸大生については学生と大学関係者の運動によって支援の対象にされ芸大生が経過措置として支援を維持されていることは本当に良かったと思う。

東京芸術大学の授業料値上げは日本中に知れ渡り詳細を知りうる芸大側から学生に向けてなんの説明もない。このような状態であることに一抹の不安を感じる。また事態がこのまま沈静化するとは到底思えない。値上げはするが不満や不信感を拭い去る努力はしない。

芸大の何もしない態度からは何かしらの思惑があることが見える。このような不健全な状態でことが正しい形におさまるわけはない。私は授業料の値上げは更に続き今とは全く違う形に変わってしまうのではないかと思っている。低所得者層の1〜2割の人たちには授業料の減免と生活の支援が行われ、その他の人たちが支払う授業料は段階的に更に値上がりする。そんなような構図が思い浮かぶ。

芸大にとって採算を上げるには授業料の値上げは避けがたいものなのだろう。上手く説明をした上で値上がりするのであれば納得もいくが、なんの説明もできないのは何かしらの思惑があるからだろうと思う。

芸大が思惑を計画通りに実行するには、事を荒立てず、問題を起こさない戦術をたて実行しなければならない。そして滞りなく授業料の値上げを実施するために立てた戦術は、腫れ者である学生と保護者らを少しでも動揺させず、できる限り静かに静観し流し、事なきを得ようとしているのだと思う。兎に角何の説明もないということだ。

芸大から何の説明もないということは芸大には動揺を沈めるために学生や保護者に納得を促す提案をする材料を持っていないし、創出したりする気は無い。そして相談することは恐らくそれ自体が内部、つまり教員及び大学職員の不利益となるので学生との折り合いをつける折衷案を立てる気はないのだと思う。事態を収める、問題を解決するシナリオはただただ静観し値上げした授業料が支払われる事を待つばかりなのだと思う。

芸大は火急の値上げに踏み切ったことで財政的な安心を得られた。でも、同時に、都合よく値上りした授業料を支払った学生たちに、それ相応のお返しをする良いシナリオを描くことは残念ながらできない。せいぜい海外から作家を呼んでくるくらいしか言えない。でもそれは誰も望んでいない。これまでと同様一時呼んだからといって何も得るものはないのだ。それくらいのことは学生は分かっている。

値上げが必要なことはわかる。値上げされても問題のない学生が多いこともわかる。大事なことは芸大内部の人間がそれ相応の誰もが良いイメージが持てるシナリオを描いて芸大を牽引することだ。それは本来学長や各科の教授の仕事だと思う。誰もが良いシナリオを考え出せないのであれば芸大の価値とは何か?改めて考え直さざるを得ない。現状ではまだ私立の大学よりも授業料は安い。つまり値上げした分にはそれしか価値が見えないのだ。私の取り越し苦労で、芸大内部に密かに動きがあり、新制度でカバーしきれない点を他の制度等で補うなどして学生が被害を受ける事なく事態が終息してくれるのであれば幸いである。しかし現状で芸大から何ら説明がない事を考えると補いきれないのだろうと思う。そのため念の為できることはしておく必要があると考えた。他の制度で何としても、新制度でカバーしきれない学生への支援を実施する考えでいるなら既に説明を行なっているはずである。

「他大学と芸大との違い」
芸大は他大学と同じ大学という高等教育機関であっても違いがある。

芸大と他大学との違いを国ははっきりと認識しなければならないと考える。芸大内部の人間が既に国に認識できるように動いていると思うが、念のために書いておこうと思う。

国立の芸術大学は日本に1校しかない。その事が明治以降、長きに渡り芸大を第一志望校とするべきという風潮を生み、誰もが芸大という針の先を目指す状況を生み、極端に高い倍率(この20年で50〜17倍)となった。

この高倍率を背景に芸大は優秀な学生が多い。そして多浪が半数程度いる。他大学と同じではない点について、私は国会議員を通じて国会には請願書等を使うことで説明する機会を得たいと思う。届くかどうかわからないが誰かが国に芸大生に支援が必要である事を申し上げる努力を重ねていかなければならない。芸大内部で誰かが動いていれば良いのだが。

芸大は長年に渡り他大学には無い激しい受験戦争を戦った学生が入学し続けている。多浪と言えばだらしが無いイメージが一般的にはあるようだが、芸大受験生にはそのイメージは当てはまらない。勿論一部には不真面目な受験生はいる。受験を通じて学生は精神的にかなり疲弊し、経済的にもかなり疲弊し、消耗した状態で芸大に入学する。これまでそれを支えてきたのは授業料免除だ。かく言う私も授業料は全く支払っていない。その点において本当に感謝している。

今回の件を受験生達はどのように受け止めているのであろうか?

私の方で準備が出来次第受験生を対象としたアンケートを取りたいと考えている。

私は個人的に芸大が高倍率であり続けることに長年否定的な考えを持っている。その為決して倍率を肯定しているわけではないが、私は狭き門をくぐり抜けた彼らの心労を1日も早く取り除くべきだと考えている。そして彼らは優秀だと申し上げたい。

「芸大は現役が約1割約半数が多浪」
芸大には現役で大学に入った者は約1割しかいない。デザイン科は比較的若いがそれ以外の科は約半数が多浪している。他大学では半数か、それ以上が現役であると思う。その残りの多くは1浪。つまり2浪以上は1〜2割程度だろうと思う。国会で新制度が3浪以上に支援が必要ないと判断したのは他大学の浪人の割合を見ながら判断したからだろう。

芸大と他大学を単純に比較してみて頂きたい。他大学の3浪との違い。芸大の3浪以上の学生と他大学の3浪以上の学生を同じ尺度で測ることに問題があることは理解して頂けるはずだ。

「美術予備校の存在」
東京芸大に限り浪人生が多くなる特殊な事情がある。芸大(東京芸大)は美術予備校に通わなければ合格することは不可能に等しい。美術予備校に通わずに芸大に合格する学生は科と専攻によってはいるがそれでも稀である。そして芸大に入るためには芸大に合格者を出している美術予備校に通わなければならない。なぜならば、例年どこかの美術予備校の学科、例えばデザイン科や油画科の1校が芸大の定員の半数前後の合格者を出し、残りの半数程度を他の幾つかの予備校から分かつように合格者を出しているからである。つまり芸大の合格者を出す予備校は片手か両手で数えられる数しかない。このような状況では、現役生は予備校には芸大に合格者を出している予備校に通える距離に住んでいる人しか通うことはできない。つまり全国的には殆どの志望者が家を出て浪人から受験勉強をスタートせざるを得ないのである。因みに彼らの全てが裕福というわけではない。低所得のため年間200万の授業料がかかる私立の美大を避けて、芸大1本で地方から出てきている受験生は少なくない。

高校の美術部や絵画教室等で勉強できるのではと考える人は多いかもしれないが、高校と絵画教室など、美術予備校以外の教育機関はリベラルアート、つまり「自由にのびのび」を基本的な概念に据えており、東京藝術大学の実技試験で生徒を合格できるだけの技術教育はできない。因みに芸大美大でも美術予備校と並ぶだけの高度な技術指導ができる機能を持っている大学はない。例えば東京芸術大学に通っていたとしても、その他の芸大美大に通ったとしても東京芸術大学の実技試験に合格できるだけの技術を身に付けることは不可能なのである。

東京藝術大学他一部難関校では美術予備校で行うような基礎的なことは大学の授業ではやらない。美術予備校で行う基礎は大学入学後に専門分野に分かれて制作していく前に、分かれてしまっては行うことが困難になるデッサンの修練を行う。それによって、色と形を見て感じて表現する能力を養い、高度なレベルへ高める。その際は将来、陶芸、彫刻、日本画など様々な分野に分かれていくとしても、皆が鉛筆や紙といったモチーフを使って、リンゴや石膏像など、教材としてはどこにでもあるような物を選んで練習をおこなっている。
基礎力の習熟度の高い芸大生は大学入学後の学び方が違う。彼らは芸大に入りこれから世界に通じる技芸を身につけていく貴重な人材である。3浪以上が支援を受けられないことは該当者である芸大の学生は勿論、芸大の損失にも繋がると共に、国の損失にも繋がる事であると考えるのでその事を知って支援されるように是非議論して欲しい。

「3浪以上で大学に入る人には苦学生が多い」
3浪以上で大学に入学する者の多くは経済的に余裕はなく、社会人になってから進学の為の費用を貯めて進学している者が多い。3浪だけを見れば確かに、現役から毎年受験に失敗してそれでも尚3浪目の受験を親御さんから許される家庭があり、その御家庭は裕福な家庭とみて良いと思う。毎年受験をして3浪してしまっている受験生の多くは一生懸命受験勉強をしていない者も多いと言える。但し、3浪とひと括りにして、その中に受験生の中でも最も真面目で優秀、しかも低所得の御家庭で苦学していると言える人たちを、対象から外していることは私には理解不能である。恐らく国会は法案を早急に通すことを急ぐあまりに、この件について有識者をリサーチするなどの調査を行なっていないのだと推測する。そもそも3浪以上の多くは一度社会に出て、自分で進学費用を貯めて進学をしてきている人たちである。その多くは低所得者の御家庭であり、今回の新制度で最も支援をするべき人材と言える。支援の対象を見直すべきだ。

⭐︎アンケートにご協力ください
2020年施行の修学支援新制度の対象から外された社会人入学者を新制度の付帯事項として支援の対象に含めることを国に請願する請願書、要望書作成に必要な資料収集の為のアンケートです。
尚、東京藝術大学等高倍率により他大学よりも平均浪人年数の高い大学についても別のアンケートとなります。但し、その中で自分で進学費用を工面して浪人した方はこの社会人入学者アンケートも該当します。

社会人入学者本人用のアンケート
社会人入学者を指導された経験のある先生用アンケート
社会人入学者のお子さんをお持ちの保護者用アンケート
一般の方用アンケート


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