短編小説を書き始める(3)
仮題「混沌」というSF短編小説、だいぶ書き進みました。これから最後どう結末をまとめるか、まだ確定はしていないです。そんな途中経過ですが、興味を持っていただければ幸いです。
「混沌」
スマホのアラームが鳴った。安井孝雄は飛び起き 、慌ててスマホの画面を見た。6時30分。「あっ、そうだ今日は休みだ」と独り言を言いながら、孝雄はそのままぼんやり画面を眺めていた。今どき通常の祝日であれば自動的にアラームは切り替わるのだが、今日は急きょ本社勤務者のみに休暇が与えられた日だった。それでついついアラームを設定しなおすのを忘れていた。「もう一度起きてしまったし、そのまま起きてしまうかぁ」とぶつぶつ独り言を言いながら、孝雄はベットから抜け出した。
今日は2054年1月20日。ほんの少し前に新年を迎えたと思っていたのだが、もう数週間も経ってしまっている。時がたつのは早いものだと言うが、本当にその通りだ。ついこの間2050年が終わり、さあ21世紀もいよいよ後半に突入かと思ったような気がするのだが。それからあっという間に3年以上もたってしまった。そういえば2051年のニューイヤーは大々的なイベントがあったように思うが、そんなことももうとっくに忘れている。
21世紀が始まった頃のことは知らないが、どうだったのだろうか。20世紀生まれの会社の古参にでも聞いてみれば、頼まなくてもいろいろ話してくれそうだが、相手にするのも面倒だ。いったい、その後の半世紀で何かが変わったのか。少なくともその前の半世紀から比べれば、確かに大きく変わったのだろう。そこに自分がいるわけだ。もっとも、それにより世界がより希望に満ちたものなったかどうかはわからないが。
それでもITの世界で言えば、ここ数十年の進歩は目覚ましい。AIは人間を超えたと言われて久しいが、確かにそうなのだろう。しかし、所詮、機械は機械だ。今や人間そのものをITに繋げる方向に、ここ10年くらい急速に舵が切られるようになった。孝雄はそういう時代の最先端をいく企業に勤めている。
現代はとにかく生み出される情報が膨大になってきた。それと同時にフェイク情報もそれ以上に増えていった。多くのフェイク情報がまん延し、様々な問題も引き起こしたものの、それを防ごうとする技術も開発された。それよりも、多くの人たちがそういう状況を認識できるようになり、リテラシーが向上してきたこともある。しかし、そのためには今まで以上の情報処理を余儀なくされるようになってきた。多くの人はAIを頼りにし、膨大な情報処理を任せてきたが、それよりも自分の脳の記憶容量を拡大して「自分で」処理したいというニーズがでてくるのは、ある意味必然であった。
孝雄の会社ではそういうニーズをいち早く取り込み、その結果、埋め込み用のチップの開発は5年くらい前にはすでに終えていた。しかし、チップを埋め込んで脳の記憶容量を拡大するというのは、倫理的な面から社会的抵抗も大きかった。しかし、ここにきてやっと解禁に至り、現在では一般的に普及しているとは言えないものの、それでも少なくない人々が利用しているような状況になってきた。もっとも、孝雄自身は、社内開発のための実験台にすすんでなり、かなり前からその恩恵を受けているので、やっと時代が追いついてきたくらいの気持ちでいる。そんな彼だが、いよいよチップの埋め込みが解禁となる、多分1年半くらい前だろうか、同僚とかわした会話を思い出していた。
「孝雄、元気かい。チップ、いや頭の調子はどうだい?」
「全然問題ないよ。快適そのものだ亅
「そうだよな。より多く記憶できるようになって、悪いことなどないよな亅
「確かにそうだ。なんというか、扱う情報量が増えると、脳がそれをカバーしようと、より活発になるような気がする。ドーピングみたいなものかね」
「頭の細胞なんて、ほとんど使ってないという話もあるし、問題無いんじゃないの?」
「まあねえ。でも流石にちょっと疲れる時もあるけどね。まあ、激しい運動すれば疲れるのと本質的には同じだと思うけどね」
「確かに。ところで、おれたちは実験用としてけっこう使いこなしてきたけど、やっと解禁になるらしいね」
「ああ、上の方が相当管轄の役所とかいろいろ交渉してたらしいのは聞いていたけど」
「まあ、良かったよな。なんかやばいものならともかく、オレなんか純粋にもっと早く解禁してほしいと思ってたから」
「そうだよな。まあでも、理由はよく知らないけど、社内でも途中でやめたのもいるし。何事もうまく付き合うのが大事なんじゃないの」
「まあね。付き合うと聞いて思い出したけど、須藤さんは元気かい」
「ああ、真弓のこと?まあ、ぼちぼちだよ。だって、付き合い始めたばかりだぜ」
「そうだな。そういえば、彼女もチップは埋め込んでいたよな」
「ああ。もともとはプロジェクトで一緒になった仲だったし」
「そうだよな。まあ、彼女にもよろしく言っといて。じゃあまた」
孝雄には同じ会社に付き合って2年になる須藤真弓という恋人がいる。付き合い始めた時は同じ勤務地だったが、その後彼女が、実家の両親のこともあって名古屋支社に異動となり、今は遠距離恋愛になってしまった。普段簡単に会うことができないのは、二人にとって寂しいことではある。もっとも遠距離恋愛と言っても、 新幹線を使えば3時間程度である。しかも同じ会社で、週末にあわせて真弓が東京本社に出張してくることもあり、なんだかんだ二人でうまくやっているのではあるが。
会社の方では、孝雄は次の大きなプロジェクトに絡んでいた。それは埋め込んだチップ同士を通信するというものだ。脳の記憶容量の拡大のために埋め込まれたチップなら、次はそのチップ同士を通信したいという方向になるのは必然だ。実はそのあたりは会社の方でも当初から考えていて、チップ本体にはすでにその機能はもっており、今はそれを封印したような状況になっている。そして、この技術についてもほぼ完成の域まで来ているのだが、やはりこれも倫理的な課題が大きいようだ。
一方、ネット上ではさまざまな情報交換がされており、まだ発表もされていない通信機能について、憶測情報が溢れている。そして、いわゆる闇サイトの中には、通信機能をハッキングして通信に成功したと触れ込むサイトが登場していた。孝雄はずっと気になっていて、最近はかなり突っ込んで調べていたのだが、提供されているアプリはちゃんとしたもののようであった。
なかなか仕事が頭から抜けない孝雄であったが、今日はとにもかくにも起きてしまったので、まず簡単に朝食をとった。そして、歯を磨きながら、さて今日はどうするものかと、考えていたのだが、ある考えが浮かんだ。今日は本社しか休みではないので真弓は出勤しているはずだがと思いながらも、彼女にちょっとメッセージを送ってみた。
「おはよう。今日は仕事だよね」
「何、朝からどうしたの」
「 いや 今日、本社は休みなんだよね。それで、ちょっと君のとこに行こうかなと思ったんだけど」
「そうなの。今日は定時に仕事が終わるから、夕方なら大丈夫よ」
「そうか。じゃあ5時に、会社近くのいつものカフェで会おうか。ちょっと試してみたいことがあるんだけど、直接話をした方がいいかなと思って」
「何なの、まあ今ちょっと忙しいから、あとでゆっくり聞くわ」
「はい。それじゃあ、また後で」
孝雄は早速新幹線の予約を済ませ、そしてパソコンに向かい準備作業をした。それでもまだ時間が余ったので、車の洗車で時間を潰した。そういえば彼女とどこかにドライブにでも行こうかなどと話もしたが、すっかり忘れていた。しかし、今の彼の頭の中はそんなことを考える余裕もなかった。そして、昼頃に彼女のところに向かった。
孝雄は早めにカフェに着き、しばらく待っていると真弓がやってきた。3か月ぶりに見る彼女は、以前より落ち着いた感じに見えた。
「 久しぶり。なんかちょっと雰囲気変わったね」
「 そう?ちょっと髪の毛を伸ばしているからかも」
「そうなんだ」
「あなたも元気そうね。仕事は順調に行ってる?」
「まあ、特に変わりなしだよ。それで…」
孝雄は、来る前に、脳のチップの通信機能をハッキングしたというサイトを再確認し、そしてアプリはダウンロードしていた。孝雄は真弓に協力を求め、それを確かめたいと思ったのだった。二人はすでにチップは埋め込まれているので、スマホのアプリを操作することで通信は可能になる。しかし、そのためには彼女が合意してもらう必要がある。孝雄は真弓の顔を伺いながら、話を切り出した。
「ちょっと相談があるんだけど」
「なあに、また急に」
「君もチップを埋め込んでいるし、今は支社勤務とはいえうちの会社にいるから知っているだろうけど、チップを通信でつなぐという話は知っているだろう」
「ああ、でもあれはまだまだ開発中なんでしょう」
「まあね。でもプロテクトはずして通信に成功したというサイトのアプリをダウンロードした」
「ふ~ん」
「端的に言えば、我々二人でつないで、テストしてみないか、という相談なんだ」
「でも、これは会社の開発中のものではないということね?」
「そう、もちろん会社の方は、今はごく限られた人間で開発を進めている状況だし、そういうものを勝手に使うことはできない。だからあえてネット上に出回っているものを手に入れた」
孝雄はそう言いながら真弓が断らなければいいがと慎重に話をしたのだが、真弓はむしろ彼よりも積極的だった。
「まあ、そんなこと気にしていたら、何もできないわよね。おもしろそうだから、やってみましょうか」
「そうか。協力してくれる?これからやろうとしていることは他社製品調査みたいなものだから、万が一会社にばれても、そうそう怒られることはないとは思うけど」
「またぁ、すぐそういう言い訳を考えるのね。そういうあなたの冒険心がないところはちょっときらいよ」
孝雄はちょっとむっとした。彼はいわゆる裕福な家庭の出で、あえてリスクを取るようなことをしなくても人生を順調に歩んでこれた。だから冒険的なことはしない習性になってしまっている。それを彼自身もわかっていて、どこか引け目を感じているのだが、やはり他人から指摘されると気分が悪い。もっともそれを知ってて、真弓は孝雄をからかっているのだった。
もっとも孝雄はすぐ気を取り直し、平静を装った顔で話を続けた。
「はいはい。でも、さすがに何が起きるかわからないし、まずは次の週末休みの時にテストすることにしよう。それまでにアプリはインストールしておいてくれればいい」
「そうね、わかったわ」
孝雄はもう実験の事にすっかり心が奪われていた。明日は仕事があるし遠方なので今日はこれで帰る、と真弓に言い残し、そうそうに帰ってしまった。せっかく会って、一緒に食事すらしないで帰る孝雄にあきれる真弓であったが、相変わらずねと思いながら、怒りもせず孝雄を見送った。そして、何よりも彼女もまた、この実験が楽しみであり、孝雄が見つけたサイトを彼女自身もすぐ見てみたいと思った。
そして週末がやってきた。すでに窓からはしっかりと日が指している。昨夜は仕事で帰宅が遅くなったこともあったが、それよりも今日の実験の興奮もあり、孝雄は昨夜はなかなか寝付けなかった。すっかり寝坊をしてしまった孝雄は、ベッドに入ったままスマホを手に取り、おもむろに真弓にメッセージを送った。
「おはよう」
「おはよう。昨日は遅かったの?」
「まあね。さて、早速はじめたいのだけど」
「はい、私の方はオンにしてあるわよ」
「そうか、じゃあ1分ほど待ってもらって、始めよう」
孝雄は、事前に今日の段取りを真弓に説明している。彼はまずテレパシーの実験をしてみたいと思った。脳に余計な負担というか情報を与えると混乱するので、目をつぶり、心を無にして、それから簡単なことを思い浮かべる。それが相手に伝わるか、というものだ。彼はあえてベッドからでず、そのまま寝ながら「真弓、愛しているよ」と心の中、いや頭の中
でつぶやいた。
さっそく、彼女からメッセージが届いた。
「ありがとう。うまくいったみたい」
「そうか、テレパシーは通じたみたいだね」
「今度は私がやってみるわ」
孝雄はまた無の心境でベッドに横たわった。すると、次の瞬間、「私もよ、孝雄」と自分が思い浮かべたような感覚を味わった。なるほど、こんな感じでつながるのかと、孝雄は思った。彼女もそうしたはずだが、メッセージを送るためにまた頭を使うとどういう混乱が生じるかわからないので、まず接続を解除し、そして真弓にメッセージを送った。
「実験は成功したみたいだ」
「そう、私が思ったこともちゃんとそっちでも共有されたみたいね」
「では、テレパシー実験はいったんこれで終り。次の実験は13時からということでいいかな」
「わかったわ。私はどうすればいいの?」
「君の方は、その時間から脳を休めて瞑想状態になっていてくれればいいよ」
「了解。ではまた後で」
孝雄は、次はウェブカメラのようなことが可能かを実験しようとしていた。つまり、彼の目や耳からはいった情報が真弓の脳で再現されるのだろうか、ということだ。孝雄は動物園に行き、動物を見て、そして鳴き声を聞くことにした。
お昼を過ぎた頃に動物園に着いた。今日は天気も良く、小さい子供を連れた家族連れでにぎわっていた。動物園となると、子供というよりも幼児というくらいの年齢の子も多い。まだしっかりとは話せない年齢だとは思うが、そういう子がじっと動物を見ている。鳴き声も聞いているのだろう。というか、むしろ親の方が、子供が視覚や聴覚からいろいろな情報を得ることで脳が刺激され、子供の成長につながるのではと期待しているように感じる。そしてその同じ情報を、自分は別人の脳に伝えようとしているわけである。自分も邪念を入れず、子供と同じように動物だけからの情報を脳にインプットしてそれを伝えるべきだなと、なんとなくそう感じる孝雄であった。
13時になった。孝雄は、猿の前にいた。見た感じ、チンパンジーではなさそうだ。でも、どんな猿の種かはよくわからない。どんな動物でも実験上はかまわないのだが、脳の実験を人間に最も近い動物でやることに、なんか意味を感じてしまい、ここに来てしまった。孝雄は目の前の猿を一心不乱に見た。頭を空っぽにし、ひたすら動きを追った。猿の動きにあわせ、首、からだを動かし、視界から外れないようにした。耳をすませたが、鳴き声はよく聞こえなかった。まわりの人の声というかざわめきが思いのほかうるさく、聴覚を集中させることがうまくできなかった。
5分くらい集中していただろうか。その後、孝雄はベンチに移動してそこに腰かけた。真弓からはメッセージが入っていた。
「確かに猿が目にうかんできた。でも目は開いていないから、なんというか、夢をみているみたい」
「そうか。なんとなく言っている意味はわかる」
「でも、しっかり起きているのに夢を見ているというのも、変な感じがする」
「それはそうだよね。音はどう?」
「ああ、ざわざわした感じは伝わってきたけど」
「まあ、聞こえているのは間違いないな。とりあえず、これで終わりにして帰る」
「わかったわ。気をつけて帰って」
孝雄は親子連れでごった返している動物園を早々に後にした。帰りの電車を待っていたら、そうだ、電車が入ってくる時の音を共有しようと思い立ち、真弓に伝えた。電車がホームに入ってくる。鉄道マニアならスマホで録画か録音でもするのかもしれないが、こっちは頭にしっかり刻み込むまでだ。そして、真弓といっしょに電車の音を楽しむことができた。いや、正直にいうと、ただの騒音にしか聞こえないな、と孝雄は思った。真弓も多分同じだろう。
その日の最後の実験は、二人の立場を逆転させた。夜に真弓にテレビに集中してもらって、孝雄はベッドの上で寝そべりながら視覚と聴覚を共有した。真弓が言っていた「夢」を彼も実感できた。孝雄は今日の結果に満足し、そしてそのままベッドにもぐりこむと、昼間の疲れがでたのだろうか、早々に寝入ってしまった。
翌日、高雄は朝早くから目ざめてしまった。昨夜は早く寝てしまったせいか、それとも今日の実験が待ちきれなかったのか、ふとスマホの時計を見るとまだ5時であった。「さすがに今連絡を取ったら早すぎるよな」と思いながら、孝雄はベッドの中で考えを巡らせていた。こういう時両方で繋がっていれば、テレパシーで「早く起きろ」なんてと伝えたりすることもできるのかなと思うと、なんかおかしくなった、いやいや、そもそも寝ている間から繋いだら夢を共有できるのだろうか、あるいは夢の中で2人であったりするのことができるのかな、などと考えがどんどん膨らんできた。そんなこともいずれ実験してみたいな、と思いつつ孝雄はベッドから抜け出した。眠気覚ましのコーヒーを入れてゆっくり飲み、頃合いを見計らって 真弓にメッセージを送った。
「おはよう、もう起きてた?」
「そうね、30分前くらいかしら。まだ着替えて、ぼんやりしている感じ」
「そうか。それじゃあ、さっそく実験を始めたいんだけど」
「始めるって、私まだ何も用意できてないけど。これから軽く、朝食をとって、そのあと掃除もしないといけないし。そんなことで午前中ぐらいは使ってしまうけど」
「いや、それでいいんだ。特段何かをする必要はない。今日は普段の生活をしながらつないだらどうなるかを確認してみたい」
「わかったわ。でもそれって、要は2人分の情報が頭の中にずっとあるっていうことよね。なんか混乱しそう」
「そうかもしれない。でも、普段でも2つのことを同時にやったりするだろう。多分大丈夫じゃないかなと思うんだけど。まあだから、実験なんだよ」
「それはそうね」
「じゃあ10分後ぐらいにつないでくれればいい。あんまり長くやっても疲れるので、とりあえずタイマーを1時間ぐらいでセットしておいて」
「了解」
孝雄はひとつの予想を立てていた。というのは、普段でも二つのことを同時にやることはあるから、あまり問題ないのではないかと思ったのだ。例えば、歩きスマホだ。スマホの画面に集中し、そこからメッセージを考えて書いて送ったりすることもある。あるいはゲームに集中してしまうこともある。一方で、まわりは見えているし、人がくればよけたりする。エスカレーターにもちゃんと乗れる。とはいえ、明らかにスマホに集中しているのは間違いない。そんな状態はいくらでもある。だから、自分の脳に彼女の脳の情報が入ってきても、ある種のバックグラウンド情報にしかならず、自分の「日常生活」の大きな支障にはならないと考えた。
さて、二人の実験は始まった。そして、孝雄の予想通りだった。15分くらいしたら、目の前に目玉焼きの映像がうっすらと浮かんだ。おいしそう、と彼女が言っているのも脳に響いた。その時孝雄はちょうど洗い物をしていたが、ながらでユーチューブみてるみたいな感覚だなと思った。一方で、自分の思考を緩め、彼女の思考により集中することもできることがわかった。孝雄は結果にすごく満足した。この二日間の成果は十分だった。
さて、週末が終わり、また月曜日がやってきた。週末の成果をふまえ、孝雄と真弓は15時から18時までの3時間に限定してつなぐことにした。お互いがお互いの仕事ぶりをバックグラウンドで感じ、まるで同じ職場で働いているような感覚であった。思いついたことがあれば、「テレパシー」を送り、意志疎通をはかった。もっとも、相の感情については、視覚情報などと比べて明確に把握はできなかった。そのくらい人間の感情というのは、ある意味曖昧で変わりやすいのかもしれない。もっとも孝雄が上司に怒られてかなり落ち込んだ時は真弓とも共有されていた。まあ、あまり深く心を探られても、それはそれでやっかいだし、適度な関係のためにはそのくらいがちょうどよいかもしれないな、と孝雄は感じた。
孝雄と真弓はそんな生活を1か月くらい続けた。二人はいつも繋がっている間柄に満足した。もちろん、それは普段は会いたくても会えない遠距離恋愛の二人だからこそなのかもしれなかったのだが。
(続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?