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ポートフォリオのないデザイナーのキャリアの築き方


初めまして。東京のWeb制作会社でデザインコンサルタントをしている古長(こちょう)です。Webでの活動のメインは、Twitter(@kocho_katsuhiko)、自社のオウンドメディアで、デザインノウハウを発信しています。

noteではより個人的な、キャリア、仕事術などについて投稿したいと思います。

今回は、自己紹介として、開示できるポートフォリオのない私が、キャリアを築く上でやってきた事を整理してみました。同じようなデザイナーさんの助けになれば嬉しいです。

序章:キャリアのスタート

私は、某日系大企業の子会社であるSIerに新卒で入社し、先日Web制作会社に転職するまで、約11年勤めました。

長年、金融業界の社内業務システム開発に携わる中で、2013年頃にUXデザインに出会いました。

その時は「これこそ自分の天職だ!」と思えるほどUXの仕事に没頭しましたが、当時はまだUXがバズワードだったこともあり、一般的な大企業では、流行りが終われば組織も分解し、他の仕事を任されるのではという不安がありました。

そうなる前に、UXの専門家として、社内で認知され、確固たる地位を築く必要があると考えました。これにはとにかく、目に見える実績作りが重要でした。

当初はプロジェクトを直向きにこなして経験を積んでいきましたが、対象の全てが機密性の高い金融業界の社内業務システムです。一般的なWebサイトともSaaSとも異なり、システムが外部に公開されることはありません。これでは、実績が何も残らない、、と焦りました。

また、Webデザイン業界の求人を色々と見てみると、どれもポートフォリオの提出が必須であることを知りました。この環境下で、どうすれば自分の市場価値を高められるのかを真剣に考えるようになりました。

ここから私は、プロジェクトと並行しながら、次の3点に集中して仕事に取組みました。

1:業界動向を発信する

当時はFinTech全盛期。デザイン分野でも米国Capital OneがAdaptive Pathを買収したり、スペインのBBVAがSpring Studiosを買収したりと、大きなトピックに業界が沸いていた時期でした。

ウォーターフォール型開発が中心で、まだUXデザインのプロセスを取り入れたプロジェクトを受注することが容易ではなかった日本の金融業界で、このような海外の先進事例をクライアントと共有することは、営業として重要な要素でした。

私は、UXデザインの啓蒙コンテンツと併せて、海外の金融業界と国内のUX動向をまとめてレポートを作成して発信しました。社外への一般公開はできなかったものの、親会社のイントラネットに公開されました。

このレポートは、多くの社員の目に触れることとなり、営業ツールとして活用されるだけでなく、UX専門組織の存在を知ってもらう良いキッカケにもなりました。

それ以降も、エンタープライズシステムやモバイルバンキングアプリのUIデザイントレンドを調査し、業界動向の発信を続けました。

これらの業界動向レポートは、機密情報を含んでおらず、あくまで一般公開された情報が基なので、実績として活用するのに有効だと思います。

2:ノウハウを体系化する

私の勤めていたSIerでは、UXを推進する組織自体はあるものの、社内認知度はいまひとつで、UXって何?イケてる画面デザイン?と考える社員がほとんどでした。(ツイッターを始めて、どこも同じような状況だと分かって少し安心しています)

これでは、自身のキャラ作りどころか、UXデザインすら認識してもらえないと思い、まずはサービスメニューを作りました。そこにはウォーターフォール型開発に取り入れるためのデザインプロセスと、ペルソナやカスタマージャーニーマップなどの手法の説明を入れました。

このサービスメニューを各顧客担当の事業部に説明し、価値を理解してもらうことに努めました。さらには、営業に同行してクライアントにも説明する機会をもらいながら、社内関係者に少しずつUXデザインを認知してもらえるようになりました。

その他の取組みとしては、社内のイントラネットで、UXデザインの手法を一つ一つ取り上げたブログ記事を寄稿しました。テンプレートや事例も一緒に共有して、使うときのイメージを持ってもらえるよう工夫しました。

さらには、誰もが実務で活用できるデザインノウハウとして「パワーポイントの作り方」や「ノンデザイナーでもできるカラーの選び方」を纏めて、社内勉強会を主催しました。(これは、厳密にはUIデザインの領域ですが、UXデザインを知ってもらうために必要なステップであると思い、UIデザインの啓蒙も並行でしていました。)

社内ブログや勉強会の場を活用することで、自分の知識や経験を体系的に整理でき、一般的な書籍では得られない、会社に合わせたノウハウとして実績を残すことができました。

3:トップダウンで組織を巻き込む

先に話した2点も重要ですが、ボトムアップ的なアプローチなので、効果が出るのに時間がかかる地道な草の根活動です。ある程度の段階でトップダウンに切り替えたことで、手っ取り早く実績を作ることができました。

ここ数年、イノベーションを起こすことが命題になっていた企業も少なくないと思いますが、私はこの機会を生かして、新規ビジネス創出にデザイン思考を活用する企画を、本部のトップに直談判しました。

この企画を承諾してもらうために、私がとった方法は、デザイン思考のプロセスでアイデアが生み出される過程をデモを通して体験してもらうことでした。

社会課題と技術要素の掛け合わせのアイデア案や、発散によって出るアイデア案を予め考えておき、そのアイデアが生まれた経緯を説明することで、自分たちでもデザイン思考はできるというイメージを持ってもらいました。

無事企画を承諾してもらい、社内の施策としてプロジェクトが始まりました。最終的には、社内の20名ほどのメンバーが関わり、一気に認知が広がりました。

その後、この施策を事例として、グループ会社向けに共有することで、社外への認知も広げることで、大きな実績として育てることができました。

広く捉えれば、組織の巻き込み方から施策を行う全てのプロセスがデザインの実績となります。これを事例として成果に残せば、あらゆる場面で活用できます。

さいごに

以上の3点を行ったことで、無事に社内でUXキャラが定着しました。しかし、ここまで努力して築いたSIerでの地位を捨て、私はWeb制作会社に転職しました。

啓蒙する立場に居続けるのは簡単でしたが、自身の成長にもっと貪欲でいたい気持ちが大きくなっていたことが転職した理由です。

プロジェクトを多くこなしているにも関わらず、公開できるものが全くなく、ポートフォリオが出せない中で転職が実現できたのは、上記で説明してきた3点の実績作りを行ってきたことが一因だと考えています。

クラインアント向けの仕事だけがデザイナーの実績ではありません。ポートフォリオに悩んでいるデザイナーは、もう一段階視野を広げ、仕事の幅だしをしてみてはいかがでしょうか。

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