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『無人島に必要なもの』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月19日オンエア分ラジオドラマ原稿)

(騒がしい店内。新歓コンパをしている大学生たち。)

「無人島に何かひとつ持って行くとしたら、なに?」
大学の新歓コンパで、まだ名前も覚えてない誰かがそう質問した。
みんな口々に答えていく。
スマホ、いや充電できないじゃん、とか。

男「えーっと、ナイフかなあ」

まあそれだよね、という微妙な空気が流れた後、彼女はそれを助けるように、

女「私は船」

といった。
いやそれはずるいじゃん、と彼女のおかげで空気は変わった。

(♪街の雑踏)

解散したあと、七隈駅から同じ方向に帰ることになった僕と彼女は無言のままだった。

男「あのう、船はちょっと危険だと思うんだ」
女「え?」
男「いや、いきなり船で脱出しようとするのはお勧めできないっていうか…。まず海の上で何日も過ごすことになるかもわからないし、どの方角にどう進むべきかもわからない。海の上って天候も変わるし海流も。何日か観察していればわかるかもしれないけど、沖に出れば何が起こるか分からない。船を操縦するのって素人では難しいと思うんだ」
女「ああ」
男「だから船は危険だと思った」
女「そっかあ。たしかにね」
男「まあどんな船かにもよるけど…。まあ冗談だけど」
女「ふふふ。いいね」
男「え?」
女「でもさあ、何かに賭けてみなきゃ、自分を投げ出さなきゃなにもはじまらないから」

彼女の言葉で僕の身体は電気みたいなものが走った。

女「これさ、今度行ってみない?」

黙っている僕に彼女はそういってスマホの画面を見せてきた。

男「謎だらけの孤島からの脱出?」
女「そう、リアル脱出ゲーム。一緒に行こうよ」
男「え、ああ、うん」
女「絶海の孤島に漂着したところから始まるの。もちろんナイフも船も持ってない。大声で叫んでも誰も助けに来てくれない。で、一緒に島の探索を始めるの。するとその島にはたくさんの謎があって、全ての謎を解き明かすとこの孤島から脱出することができるの」
男「うん、やってみる」

なぜだか分からないが僕は彼女と一緒にその謎多き孤島に行くことになった。
無人島に持っていくものを「ナイフ」と真面目に答えたのが良かったのかもしれない。



(-当日-)

そして僕は謎解きが案外得意だった。
その日は自分でも驚くほど冴え渡っていた。

女「え!まじですごいじゃん!なんでわかるの?謎得意なの?」
男「いや、こういうの好きだから」
女「私、無人島に持っていくもの何って聞かれたら、君っていうかも!」

その瞬間、また僕に電気みたいなのが走った。
何かに賭けてみないと。
自分を投げ出さないと恋愛なんてはじまらないんだ。

男「僕と、付き合ってください!」

彼女は少しぽかんとしている。
自分を投げ出すのが少し早かったか。

女「あなたに賭けてみようかな」
男「ぜひ!」


おしまい。



※こちらの小説は2022年4月19日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア

感想は #こちヨロ  で

挿絵:Gota Ishida

今回の作品で紹介されたリアル脱出ゲーム「謎だらけの孤島からの脱出」の情報はコチラ


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