親知らず抜歯日記③ 抜歯手術は実況つき
親知らずの抜歯を覚悟して行ったら、肩透かしを食らったあの日からまた2週間。ついに抜けました。
抜歯は午後2時。その1時間前に抗生剤と整腸剤を飲むように言われていたので、昼食後に飲んだ。ふーっとため息をつきながら、いざ出発。
梅雨の雨がしとしとと降る日だった。炎天下ではないだけまだマシなのか。どんよりとしたお天気は私の心模様そのものである。気づけば病院に着いてしまった。受付をして血圧を測る。
口腔外科の看護師さんに、
「お身体は具合の悪いところなどありませんか?」
と聞かれ、
「緊張以外は大丈夫です」
と答える。私が提出した血圧の結果シートをみて、
「あぁ、脈拍多いものね。大丈夫ですよ。深呼吸して待っていてくださいね。」
と優しく言われた。脈は余裕で100を超えていて、平常値のほぼ倍だった。診察は前の人が長引いていたのか、なかなか名前を呼ばれない。そろそろ深呼吸にも飽きてきたころ、ようやく名前を呼ばれた。
そこからは流れ作業で、まずうがいをする。眼鏡とマスクを外すと、時計とアクセサリーも外してくださいと言われた。緊張のせいでネックレスを外す手が震えて余計に焦る。なんでも電極パッドを足の下に敷くらしい。前のときは電極パッドなんて使わなかったので、失神する人でもいたのだろうかと心配になる。
まずは口内の麻酔をして、少し時間を置きますよと言われた。麻酔を数か所にぶすぶすと刺される。ちょっと痛い。それから、唇が切れるとよくないんでねと、唇に保護クリームを塗られた。誰かに唇をなでられることなんてそうそうないので、なんだか変な気持ちになった。ここで一旦うがいをするよう促されて台を起こされた。うがいをして、ふぅと息をついたのも束の間、再び台は倒された。
口を開けたら手術の始まり。この短時間のうちにしっかり麻酔が効いているらしく、何かで口内をいじられていたが全く感覚がなかった。そのことにびっくりしていたら、医師から、
「いまね、歯茎めくってますからね。」
という恐怖の実況が。その一言で頭の中をグロテスクなイメージが駆け巡ってドキドキしてきた。そうか、いま突っ込まれているのはメスなのか……。
(このようなグロ系表現が苦手な人はUターンしてくださいね。)
「では、さらに切って行きますよ。」
の言葉から数分後、助手の方に向かって、
「そこからは見えへんかもしれんけど、僕には見えるくらい深いところまで切っているんでね。」
と言って、なにやら指示をしているのが聞こえてきた。いつの間にかめっちゃ奥の方まで切られていたらしい。
すると今度は私の方へ、
「はい、鼻で息してね。歯医者さんの水が出る治療と一緒ですからね。」
と指示があった。出て来るのは水なんだろうか、いや、私の……とまた想像して怖くなり、指示通り鼻呼吸を意識して気をそらしていた。
すると突然、医師の手が私の右鼻の穴をふさぐ位置に置かれた。息が上手くできないではないか!恐らく医師の手には私の荒い息がぶつかっていたと思うけれど、手術に集中している医師の手を前にしては、私の鼻息如きの風圧は無に等しかったようだ。びくともしなかった。仕方がないので自由が利くもう片方の穴で強く強く呼吸した。
鼻の穴がふさがれたのはその数分だけだったが、メスやドリルで切ったり削ったりするのに合わせて、医師の手が顔のあらゆる場所で私の皮膚をグイグイ引っ張ったり圧迫したりするので、何度か鼻がもげそうになった。患部よりもそっちが痛かった。せめてマッサージ効果で小顔にでもなっていてほしいものである。
しばらくして、
「はい、歯を割っていきますよ」
と再び実況が入った。ドリルのようなもので歯が割られているのがなんとなく感じられた。その後は、ぐっと力をかけて歯を割るらしい。大きな力が私の左下顎にかかって、骨に響く感覚があった。口腔外科手術は重労働なんだと思っていると、
「もうちょっと割らなあかんな。」
というつぶやきが聞こえ、また大きな力が加わる。心なしかパキパキ言っているのが聞こえた気がした。このときには、早く割れてくれと私も自分の歯に向かって念じていた。
歯が割れてからは、順調に歯が取り除かれていったと思われる。
「これから縫っていきますからね。」
と声掛けがあった。歯茎に何度か糸をぷすぷす刺された。まだ処理していない糸が口から数本飛び出していたときに、
(自分、口からピロピロ糸はいてやんの)
という言葉がよぎって可笑しくなってしまった。おかしいのは私の頭である。
必死に笑いをこらえていると、バツバツと糸の先が切られ、手術が終わった。既に顎が重い。
患部の確認と説明のために持たされた鏡を覗いてみる。うわ、めっちゃメイクがよれてるやん!……ではなく、きれいに縫われていて安心した。患部に乗せられたガーゼを噛みしめながら術後の注意点の説明を受け、1週間後に抜糸することが決まった。
クーリング用の保冷剤をもらったので、これ見よがしに顎に当てて会計に向かった。気分は悲劇のヒロイン。傍から見れば殴られた人にしか見えないだろうけれど。そのときの私には、そうやって感傷に浸る儀式が必要だったのだ。
帰宅してすぐに痛み止めを飲んだので、麻酔が切れてからも激痛ということはなかったが、それでもじんわりずっと痛かった。晩御飯はリゾット。右側に顔を傾けて、手術した左下にごはんがいかないように気を付けた。口の開閉が患部に響いて痛くなってくるので、リゾットのような食べやすいごはんを選んだのは正解だった。
やはり抜歯も二度目となると、その後の対応も上手くなるものである。この後の数日間の苦しみが、どうか少ないものでありますようにと願いながらその日は眠りについた。
・・・というわけで、実況してもらいながら無事に歯は抜けました。以後の経過については、長くなってしまうので記事を改めます。
次は淡々とした抜歯後の経過レポになる予定です🦷
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