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【訪問記】日本屈指のヴォーリズ建築群!神戸女学院 愛校バザー

関西圏で有名な女子校の一つ、神戸女学院。その愛校バザーに行ってきました。一番のお目当ては、国の重要文化財にも指定されている建築です。
建築物の美しさはもちろんのこと、建築家の思いに心打たれて帰ってきました。

今回は、そんな訪問記になります。
写真が多めなので、ゆるりと見ていってくだされば嬉しいです。

はじめに

神戸女学院は、米国出身の宣教師が開いた私塾に端を発し、来年で開校150周年を迎える名門校です。

もともと神戸にあった神戸女学院は、90年前に現在の兵庫県西宮市・岡田山の地に移転してきました。所在地が神戸市ではないのに‘神戸’女学院を名乗っているのは、こういう理由があったんですね。

場所はこちらです↓



岡田山への移転の際に校舎の設計を行ったのは、米国人建築家のW・M・ヴォーリズという人物でした。彼は日本国内で1,000を超える建築を残しています。(ちなみに実業家の側面もあり、日本国内でメンタームの販売を手がける「近江兄弟社」を興したのもこの方です。)

そんなヴォーリズ建築の代表作ともいえる、神戸女学院に現存するヴォーリズ建築12棟は、2014年に国の重要文化財に指定されました。

casa BRUTUSのネット記事をご紹介します。

神戸女学院文化財保存活用委員会委員をつとめ、ヴォーリズ研究に長年携わる山形政昭・関西学院大学客員教授はこう話す。

「重要文化財建造物を12棟も有する学校法人は、類例がありません。またヴォーリズによる建築は年々評価を高め、登録有形文化財となっている建物が100件に迫る勢いですが、重要文化財に指定されているのはここだけです」

大学キャンパスとしてもヴォーリズ建築としても、日本屈指の文化財を有する神戸女学院。大きな魅力は美しさだと山形さん。「ヴォーリズが関わった重要な建築はいろいろとありますが、美しさにおいては一番」と語る。

https://casabrutus.com/categories/architecture/379726


私も実際に同校の卒業生から校舎が非常に美しいことは聞いていたので、機会があれば訪問したいと思っていました。
しかし、女子校なだけあって、基本的に関係者以外立ち入り禁止なので、ふらっと散歩に行くわけにはいきません。

今回はバザーの入場券をいただくことができたので、念願の訪問が叶いました。

※バザーのほか、神戸女学院が開催するヴォーリズ建築見学ツアーに申し込めば、訪問が可能です。
HPはこちら→神戸女学院ヴォーリズ建築 一般公開|神戸女学院大学 (kobe-c.ac.jp)

いざ、神戸女学院へ!

最寄り駅の阪急今津線・門戸厄神駅から徒歩約10分。住宅地の中に正門が現れます。

重要文化財の一つである正門は、現在補修工事中。
入口すぐに案内地図。
現在地から校舎まで、距離がありますね。しかもこれ、上り坂なんです。


バザーの訪問者は、圧倒的女性率の高さを誇っていました。門を通り過ぎてからも校舎までひたすら坂と階段を上りますので、ヒールのご婦人方はさぞしんどかったことでしょう。

坂の中腹で入場券を係の人に渡すと、その先に音楽館が見えてきます。

歴史を感じさせる美しい洋風の建物が…!
風見鶏は笛を吹く少年。
簡素すぎず派手すぎずな装飾がイイ。


その脇を通り過ぎ、階段を上っていくと講堂が現れます。こちらも重要文化財の一つです。

中央右寄りの建物が講堂です。


案内マップをもらって、見学開始。と、その前にちょうどお昼の時間だったので、腹ごしらえをすることに。

神戸女学院のOG組織、めぐみ会が販売していたお弁当にしました。

その名も「めぐみ弁当」
阪急デリカが作っているみたいです。


食事は食堂におじゃましてとりました。
食堂と校舎間をつなぐ廊下にも、ステキな意匠がこらされていて、ついつい見とれてしまいます。

美しい装飾が凝らされたドア
洒落た窓の向こうには新緑



満腹になったところで、建築散策スタートです、


まず見えてきたのはチャペル。
同校関係者はここで結婚式を挙げることもできるそう。(今年度・来年度は中止とのこと)

雰囲気のあるチャペル。中も見てみたかったです。


続いて中庭。ここは四方をヴォーリズ建築に囲まれていて、まるで西洋の御屋敷のようです。
公式インスタの写真が分かりやすかったので貼っておきます↓


中庭に面する図書館では、「神戸女学院のヴォーリズ建築─Beauty Becomes a College─」という展示がなされていたので、見学することにしました。

「神戸女学院のヴォーリズ建築─Beauty Becomes a College─」展示


図書館一階は、洋館のエントランスそのものです。石づくりの広間は、歴史を思わせる重厚感がありました。

正面が入り口のドアです。
柱の装飾と石の質感がとても良い味を出しています。
入り口正面で迎えてくれるミニ・ミロのヴィーナス
石と木の組み合わせが見事。石壁や石の階段に知の堆積を感じてしまうのは、私だけでしょうか。
廊下にあった在校生への掲示。重要文化財が学び舎だなんてうらやましい…。


階段を上がって、2階では様々な資料展示がされていました。創設者の解説、神戸時代の校舎の写真、移転計画にかかる資料集、戦災・震災時の様子、ヴォーリズの建築図面といった貴重な資料も。

展示と実際の建築物を見ていけば、本展のサブタイトル‘Beauty Becomes a College (美は学舎にふさわしく)’の意味が、誰でも感得できるように思います。

岡田山に移転した校舎の設立が特集された新聞記事。この時代(1934年)に、こんなきれいに上空写真が撮影されていることに驚きを隠せない…!



私の心に残ったのは、ヴォーリズがどのような考えのもと校舎建築と向き合っていたか、ということ。
展示資料を一部を引用します。(旧漢字を当方にて改めています。)

建築は世界中で最も興味のある仕事であると私は思ふのである。建築家と言ふものは常に、夢を夢み、絵を画く以外には何等為す事を知らないのである。しかも彼等は、かく自分自身を楽しみながら、世間からはその報酬を受けて居るのである。もしも私が此処に百万円の金をもつて居て、生活の為に働く必要がなければ、その金を払つてゞも建築の設計をさせて貰ふであらう。さうすれば私は四六時中仕事の中に埋つて居てどんなにすばらしい事であらうと思ふ。

「神戸女學院新校舎建築の要素 設計者の言葉」『めぐみ』第22號 神戸女学院同窓會、1933年、2頁


これは建築家を天職とした人の言葉だ……仕事に対して、この境地に至れるのがうらやましい。と思うと同時に、もし自分が建築をお願いした人がそれぐらいの情熱と矜持を持っていたならば、それはこの上なく喜ばしいことだなと思いました。

引用に戻ります。

吾々の健康、能力、性格等は凡て、その中に居住し又其処に於て仕事を為す処の建物の種類によつて影響を受けるものである。

「神戸女學院新校舎建築の要素 設計者の言葉」『めぐみ』第22號 神戸女学院同窓會、1933年、3頁

神戸女学院は、生徒の円満なる人格を啓発すると言ふ目的としかもその可能性とをもつて居るのである。そこでこの事業を成就せしめる為に有効な様な設備を施す事に助力の出来る事は非常な感激でなければならない。

「神戸女學院新校舎建築の要素 設計者の言葉」『めぐみ』第22號 神戸女学院同窓會、1933年、3頁

ここには、建物は、それを使用する人たちの健康や能力、人格等に影響を及ぼすのだという考えから、神戸女学院での教育目標を成就するために、建築上の助力を惜しまないというヴォーリズの意思の表れが見て取れます。

私は建築に関して何の素養もないのですが、建築物を見て、実用性よりも奇抜で斬新なデザインであることを狙っているように感じてしまうことが幾度かありました。
しかしここで見たように、ヴォーリズはそうではありません。彼の建築物を使用する者たちに投げかける彼の目線には、温かな愛情を感じます。

吾々は、生徒方が此等の建物を単に雨露を凌ぐ場所として、或は仕事場として用ふるのみならず、その中から直接に教育価値を見出されん事を希望するのである。
 たとひそこに欠点を発見しやうとも、それがよりよきものへの認識を深めるならばそれは決して無益な事ではない。それはとりもなほさず新しい美への進歩的発見となるのである。

「神戸女學院新校舎建築の要素 設計者の言葉」『めぐみ』第22號 神戸女学院同窓會、1933年、6頁

教育の場としての校舎、その効用に「新しい美への進歩的発見」を挙げているのが興味深いです。たとえ欠点が見つかったとしても、それは「新しい美への進歩的発見」なのだと前向きに捉えている点も面白いですね。個人的にこのマインドを見習いたいと思いました。


さてさて、この図書館の内部もまた凝った作りになっています。
まずは説明パネルの写真をどうぞ。

窓からは中庭を臨むことができます。
天井は「天平時代に由来するデザイン」だそう。
和洋折衷なのがまたステキ。


室内の小窓からは螺旋階段が見えていました。
説明文によると、「螺旋階段は「真理への途は螺旋階段を上るが如し」という意より「真理探究」の精神を表すものとして」設置されたそうな。

たしかに、研究にしても仕事にしても、前と同じところに戻ってきてしまったと感じることがあります。しかし、上から見たら同じ場所に立っているように見えても、横から見れば、元いた場所ではなく、きちんと上に昇っていた──つまり螺旋階段を昇っていた、というのが実際なのではないでしょうか。

ここで言われている真理探究の精神とは、こういうことなんじゃないのかなぁと想像しました。

こちらが螺旋階段



講堂でダンスを見る

図書館見学を終え、講堂の内部も見てみたくなった私。講堂ではステージ上で出し物が行われていたのですが、ちょうど観客入替えの時間だったのでタイミングよく入場できました。

二階から撮った講堂内部。教会を思わせる雰囲気がありました。
一階中央には、神戸女学院の標語「愛神愛隣」の文字



私が見たのは、高校ダンス部の発表でした。ジャズダンス、HIP HOP、アイドル風など、色んなジャンルのダンスが披露されていきます。どれもカッコいいしかわいい。

気づいたら、なぜかうるうるしそうになっている自分がいました。青春というものに感じ入ってしまったのでしょうか?

ダンスの合間のMCもかわいらしかったです。カンペを読みながら進行していたのですが、手に持っているカンペが、紙かと思ったらスマホでした。時代の流れを感じました。

まあ、使用楽曲がひとつも分からなかった時点で、だいぶ若い子たちから離れちゃっているんだなって思っていましたけどね。

フィナーレには大きな拍手を送っておきました。

最後にバザー会場となっている体育館、グラウンド、中高部の校舎を散策。
帰りの時間が迫ってきていたので、サーッと見て帰ってきました。手作りアクセサリー、衣類、かごバッグ、お茶やお菓子など、色んな出し物が並んでいました。

中高部の校舎入口


そんなこんなで帰る時間に。
帰り道に撮ったお写真をいくつか載せていきます。

小さなイングリッシュガーデン、その名も「シェイクスピアガーデン」。
校内にこんなお庭があるなんてすごいなぁと思うばかり。
新図書館。ほかの建物と比べると真新しく感じますが、それでもシックなデザインなのはさすがです。
守衛室でしょうか?とてもかわいい造り。
窓がステンドグラスになっていました。



全部の建物に入れたわけではありませんが、とても貴重な空間にお邪魔させてもらえて大満足でした。


愛ある建築家の建物だからこそ、戦災や震災を乗り越えて、今なお学生さんたちに愛される学舎として活躍し続けているのかもしれませんね。


よき1日でした!


◇参考サイト

ヴォーリズ設計の重要文化財が並ぶ〈神戸女学院〉が再整備へ。建築とランドスケープを尊重したそのプランとは? | カーサ ブルータス Casa BRUTUS
建築家 ウィリアム・メレル・ヴォーリズを知ろう! 山の上ホテルなど - SUMUKOTO.COM


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