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博士のまなざし

空に向かってまっすぐ立つ針葉樹林。
その根元には苔がぎっしりと広がり、はらはら降った雪のように無数の白い花が咲いている。

何も知らずにこの景色を見たら、「きれいな林だな〜」と思って終わっていたかもしれない。
視点を持っているかどうかで、見える世界は180度変わる。

白い花の名前は「バイカオウレン(梅花黄蓮)」。
半日陰の湿地を好み、群生するのは珍しい。

高知県佐川町出身で日本植物学の父と言われる牧野富太郎博士がこよなく愛した花で、生家の裏山には今も自生している。
晩年にお見舞いの人が持ってきたバイカオウレンを手に取り、故郷の香りがすると喜んだ話も有名だ。


バイカオウレンを撮影しようと、地面に顔を近づけてスマホのシャッターボタンに指を添える。
花にピントを合わせる数秒間、画面越しにミクロの世界をのぞいた気分になる。

ふわっと土の匂いがして、遠くから聞こえるわさわさと葉が揺れる音。

自然をこんな間近で観察したのはいつぶりか。
子どもみたいにひとつの花をまじまじと見つめたのもいつぶりか。


牧野博士の草花に向けるまなざしは、わたしの暮らしに取り入れたい視点でもある。

「雑草という草はない」


牧野博士のお言葉のように、ひとくくりに「雑草」として見ていたものの中にも、ひとつひとつ固有の名前がある。
暮らしの中にも小さな幸福があるのに、見えていなかっただけかもしれない。

パッと分かりやすい華やかさはない、素朴なバイカオウレンを見て「かわいい」と思う感性だってそう。
こうやって小さなものに感動する心を持って世界を見たら、何の変哲もないわたしの日常にだって幸せのヒントが転がっている。

小さなものに目を向ける。

この視点、博士に学びたい。


バイカオウレンは1〜3月が開花時期。
佐川町の牧野公園や加茂の里でバイカオウレンの群生地を見ることができる。


高知の楽しみ方を気ままに発信する #高知の歩き方 
高知暮らしのよみものを綴っています。
田舎を楽しむヒントをおすそ分け。

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