パンツスーツと時計
起きたら間に合うぎりぎりの時間だった。
駅から走って校門を抜ける。
受験シーズン中盤、疲れもあって寝過ごしてしまったようだ。
席に着くと、ひとりの女性が目に入った。試験監督の方。見たこともないようなきれいなシルエットのパンツスーツを着ている。色はワインレッド。髪は短めのボブスタイル。
院生だろうか。かっこいいな。
目が覚めたような気がして、試験の準備をする。
そして時間を確認する…が腕時計がない。
慌てていて持ってくるのを忘れてきたようだ。
しかもなぜかこの教室には時計がない。
しまった。どうしよう。
けど仕方ない。
1限目、英語。
時間がわからないからとにかく早く回答する。
なんとか無事に回答しおえた。
でも、このままあと2科目受けるのもつらい。
休憩時間に思い切って隣の女の子に聞いてみた。
「すみません、今何時ですか?」
すると、私が時計を忘れたのだと気づいたその人はなんと、自分の腕時計を外して私が見える位置に置いてくれたのだ。
なんて親切。ライバル同士なのに、ありえない親切さだ。
その後の試験は落ち着いて受けることができた。
試験を受けた日にはほとんど行くつもりのなかったその大学に、私は通うことになった。
他にもいろいろ理由はあったのだけど、今思えば、このふたりの女性に会ったために、私はその大学に行くことにしたような気がする。
※初出:2020年2月8日 はてなブログ
見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしております。
Take様、ありがとうございます。