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宇陀松山から菟田野へ 宇太水分神社

 又兵衛桜~宇陀松山の街並みをまわり終えると、ちょうどお昼どき。
 夕方に奈良市内へ戻るまで、さて、どのように過ごそうか。町中華の定食をかきこみながら、室生寺か宇太水分(うだみくまり)神社かでさんざ迷ったあげく、後者に決めた。
 室生寺と宇太水分神社はいずれも宇陀市内にあり、国宝建造物を擁する寺社。室生寺はご無沙汰だが、宇太水分神社は今回がお初となるのだ。宇太水分神社に着いてなお時間が許せば、室生寺を目指すとしよう。

 現在地の宇陀松山地区と近鉄の榛原駅、それに宇太水分神社を結ぶと、榛原駅を頂点とする二等辺三角形ができる。現在地と神社を直でつなぐ公共交通機関はなく、タクシーは高くつくので、いったんバスで駅まで戻らなければならない。つまり、二等辺三角形の長辺2辺をバスでなぞるという、非効率な形となる。
 これに要する時間と、現在地から神社までの最短距離を徒歩で横断する時間はほぼ同じで、1時間ほど。歩けばバス代も浮く――天気がよいことであるし、いっちょ、歩いてみるか。

宇陀松山の街並みから、後方の山中へ。山上には宇陀松山城跡がある
田園を往く。このルート、正解だった

 登りはじめはどうなることやらといったところだったが、全般にわたってなだらかな起伏が続き、ハイキング気分で春の野を闊歩できたのであった。
 途中のところどころには、古くから棲んでおられるらしいお宅も。

立派な長屋門のお宅。近寄ってみると……
簡易郵便局! 車の停まっている棟は茅葺き屋根だった
同じお宅の裏手。ほとんど城郭、砦といってよい

 明治に入って郵便制度が導入された頃、名主・庄屋などその土地の既存の有力者に郵便局の開設が持ち掛けられたという話は聞いたことがあったのだが、これはきっとその名残なのだろう。現役というのがまたすごい。

 斜面を下りきって、川沿いに開けた見通しのよい盆地に出た。これが「菟田野(うだの)」で、その中心に宇太水分神社はある。

神社手前の1つのブロックを占める、瓦屋根の大邸宅。巨大すぎる。造り酒屋かなにかだろうか
神社裏の木造校舎。現在はコミュニティースペースになっている
手つかずの風情を残す門前町の先に、朱の鳥居が現れる
杉の巨木が聳える、宇太水分神社の境内。とても静か
左の3つの社殿が国宝の鎌倉建築、右2つが重文の室町建築

 いざ神域へ足を踏み入れてみると、とたんに、ささやかな達成感が。早朝に夜行バスを降りてから、ほぼ歩きっぱなしである。
 宇太水分神社はその名のとおり、水源・水脈にまつわる神を祭神としている。社の前には湧水の汲み場があった。参拝を済ませ、その甘露を口に含んでから、境内のベンチでしばし憩った。
 ここで、室生寺までの道を確かめるも……次のバスは50分後。室生寺の閉門時間には、どうやっても間に合わない。
 まあ、いいさ。急ぐ旅路でもなし。室生寺へは、またゆっくり来ればよいではないか。

 少しだけ、目をつむった。
 聞こえてきたのは、せっかちな蝉の声と、湧水のせせらぎだけであった。



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