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兵食 陸海軍の食事から、英霊に捧げる「神饌」まで:3 /靖國神社遊就館

承前

 旧日本軍の「食」にまつわるトピックが満載の本展。
 全体の流れや要点は前回・前々回まで書いてきたとおりだが、ぜひご紹介したい事柄は、まだいくつか残っている。駆け足で振り返っていくとしたい。

 戦地の兵士へ届けられた「慰問袋」の中には、保存のきく食品が好んで入れられた。展示室には慰問袋の実物とともに、森永ミルクキャラメル、牛肉の缶詰、「旅行の友」のパッケージが並ぶ。
  「旅行の友」は、西日本ではいまもお馴染みというふりかけ。大正時代、軍からのリクエストを受けた広島の食品メーカーが開発した。ショップでは復刻版の缶に入れて販売されており、食指が動きかけたものの買いそびれてしまった。
 いまネットで調べると、ミニチュアストラップつきセットなるものが出てきた! 靖國神社のショップにはなかったものだ。これは欲しい……

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 戦地で新年を迎える兵士のために、特製の「口取缶詰」が製造されたという。
 缶詰を開けると、紅白のかまぼこに伊達巻、田作りなど、おせち料理の一式がぎっしり入っているもの。
 さぞ、喜ばれたことだろう。まるでレベルの違う話ではあるが、小学校の給食で、季節の特別メニューが出たときの嬉しさを思い出した。
 昭和天皇は兵士たちを思い、みずから所望して、同じ缶詰を召し上がったとのことである。そのときの再現メニューも展示されていた。

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 兵食をつくるバックヤードでは、大量の食材を効率よく調理するために、さまざまな業務用マシーンが導入されていた。
 例として出ていたのは「野菜小口切断機」「根菜縦横切断機」「大根卸牛蒡削機」……字面をながめるだけで楽しい。
 そして、つい、声に出して読みたくなるではないか。大山のぶ代ヴォイスに脳内変換しながら……
 そういえば、館内の食事処でいただいた「海軍カレー」の野菜は、具材が「ごろっと」系ではなく、サイコロ状に細かく刻まれていた。何百人分かを一気に仕込まねばならないわけで、この種の「切断機」があれば大助かりだっただろう。もしなければ、かなりの苦行。

なぜ、小さなサイコロ状か。火を通りやすくするためと思われるが、取り分けたときに不公平が生じづらいから?……とも想像している

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 本展は、図録が制作されていない。
 非常にもったいないことだ。展示室の内容をそのまま書籍化できれば、手堅く数字が出そうなものだが……
 展覧会をもとにした書籍を何度か出されている河出さんあたり、どうでしょう?

 ※国立歴史民俗博物館「大ニセモノ博覧会 贋造と模倣の文化史 」(2015年)の内容をもとに、展覧会から少し遅れ刊行。

 ※同じく歴博で大きな反響を巻き起こし、図録が何度も品切れになった同名の展覧会を新書化。こちらは集英社。


  ——「食」という身近なテーマである反面、初めて知ることが多かった本展。すこぶる満腹……もとい満足であった。
 会期は当初、12月までだったものの、展示室の改修工事のため開催期間が短縮、現在は11月16日までに変更されている。
 会期延長ならともかく、コロナ下でもないのに短縮とは珍しいが、それでもなお閉幕まで余裕がある。
 折しも靖國神社門前の昭和館では、特別企画展「慰問 銃後からのおくりもの」が開催中。慰問袋に入れられた手紙や食品、さらには芸能人による現地慰問の活動を紹介する展示で、本展とも関連が深い内容といえそうだ。こちらは、9月8日まで。
 きょうは、8月15日。「兵食」展と併せて、ぜひ。


新たに導入された自動給餌器をお勉強中の、猫のさとる。飼い主さんも機械の操作を勉強中。高さを確保するため、自動給餌器の下に図録を数冊敷いた状態


 ※「食」に関する展示:上野の国立科学博物館で観た「和食」展は宮城に巡回中。渋谷の戸栗美術館では「古伊万里から見る江戸の食展」が開催中。浮世絵を題材に、江戸の食文化を探る企画もよくみかける。原宿・太田記念美術館では来春「江戸メシ」を控える。

 ※本展では、最近目にする「ミリメシ」という表現は使われていなかった。


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