見出し画像

兵食 陸海軍の食事から、英霊に捧げる「神饌」まで:2 /靖國神社遊就館

承前

 旧日本軍の食事「兵食」について、紐解いていく本展。
 まず興味を引かれたのは、陸軍の1週間分の献立。主食は米、週1でパン、副菜は一汁に一・二菜を基本としている。夕食のメインディッシュにはコロッケ、カツレツ、ライスカレーもあった。
 訓練や実戦に向けて大いにスタミナをつけねばならないとはいえ、なかなかにハイカラで、おいしそうなメニューだ。
 もう少し先のコーナーには、レシピの再現が。陸軍からは「開鱈シチュー」「カレー汁」「ドーナツ」の3点だった。
 完成写真や材料からして、シチューにとろみはなさそう。カレー汁も「汁」を銘打つだけあって、やはりとろみはないのだろう。いわゆる「シャバシャバ系」。どんな舌触りや味なのか、気になる。
 ドーナツもあったのだ! たしかに、材料やつくり方はシンプルで、手間は比較的少ない(揚げ物だけど)。
 こういった西洋風のデザートやパン食は、とくに地方の出身者にとってはまだまだ目新しく、惹かれるところが大きかったのだとか。

 そういった意味では海軍、とりわけ将校たちに出されたメニューは、さらにすごい。西洋料理のフルコースである。
 海軍士官のカリキュラムには、フォークとナイフを使ったテーブルマナーの習得が組み込まれていた。そういった場での立ち居振る舞いが、いずれ軍務上で必要とされたためである。
 メニュー表には、現代の高級フランス料理店とみまがうような、シャレオツな料理名が並ぶ。
 海軍からの再現メニューは「チキンカレー」「牡蠣のクリームスープ」「タピオカプリン」。陸軍の3品とは、名前からして雰囲気が違う。タピオカは、平成初頭のブーム(懐かしい)より50年以上も前から、海軍でデザートになっていた。驚き。
 また、チキンカレーには、海軍将校だけに提供されたアレンジ・レシピがあったという。それは「伊勢海老カレー」。伊勢海老は、昔も今も希少……海軍将校ではないが、いつか、いただいてみたいもの。
 おもしろいのは、こういった食事の調理にあたった主計兵が、退役後に洋食店を開業し、海軍由来の洋食の普及にひと役買ったということ。具体的に挙げられていたメニューは、チキンカレーにロールキャベツ、クリームシチューなど。
 また、甘味・デザート類に関しても、やはり軍のOBが店を開いて一般に広めたり、軍での経験をもとにご当地の銘菓を新たに生み出したりといった波及があったという。
 まさか、かように身近なところにまで、兵食の名残があろうとは思わなんだ。たいへん興味深い現象といえよう。
 あなたの地元のあの銘菓も、ルーツを調べてみると、兵食に行きあたるのかもしれない。

 朝昼晩の兵食のほかに、「酒保(しゅほ)」と呼ばれる売店兼食堂のようなスペースで、小腹を満たすこともできた。
 酒保ではうどん、そば、おでんといった軽食が食べられたほか、ビール、サイダー、菓子などの嗜好品を買い食いすることができた。いまでいう社食や学食にあたる施設だけれど、アルコールまで取りそろえていたとは!
 本展のメインビジュアルとなっているマンガのイラストは、酒保での憩いのひとときを描いている。

コレデ/俺ハ大福ヲ/二十七タベタヨ

俺ハ/ウドンヲ/九ハイ/平ラゲタゾ

 酒保はこの絵のように、にぎやかな社交の場となっていたことだろう。(つづく)

 

展示を拝見後、館内の茶寮「結」にて、『海軍割烹術参考書』(明治41年9月)のレシピを忠実に再現した「海軍カレー」をいただく。辛さ控えめ、ヘルシーで食べやすい和風カレーだった(なお、兵食のカレーにカツは乗っていない)
食後のコーヒーは、海軍のうつわで



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?