コレクター福富太郎の眼 /東京ステーションギャラリー
キャバレーの経営で成功し「キャバレー太郎」と呼ばれた福富太郎さんは、近代絵画の名うてのコレクターであった。
福富コレクションは、退廃的で妖しげな魅力を湛えた女性像に定評があり、そのなかには福富さんが私淑した鏑木清方の名品が多数含まれている。明治の草創期の洋画や戦争画も個性的。これらは市場、また史上での有名無名にかかわらず集められた。福富さんが先鞭をつけた作家は数多いる。
福富コレクションの展覧会はこれまで何度か開催されてきたが、今回は過去最大規模の展示となる。
福富さんは生前、みずからの蒐集品について語った本を2冊出している。『絵を蒐める 私の推理画説』『描かれた女の謎 アート・キャバレー蒐集奇談』で、いずれも『芸術新潮』の連載をまとめたものだ。これが無類のおもしろさで、出入りの激しいわが家の蔵書にかれこれ10年以上もとどまり続けている。書棚からひっぱり出し、予習をして気合十分で臨んだので、キャプションは流し読みで済んだ。
それにしても、これほど絵の背後に集めた人の顔が見えるような展覧会も珍しいのではないか。福富さんはテレビのバラエティ番組に盛んに出演し、年配の方にはおなじみだという。ずっと下の世代なのでその活躍ぶりを直接は知らないのだが、もしそのような記憶を持っていたとしたら、どんな見え方がしただろう……
印刷物でしか顔を知らないわたしですら、展示されている一点一点が福富さんの名刺なんじゃないかというくらいに思えたのだ。寅さんのタコ社長のようなふくよかなニコニコ顔が、屏風の陰から、額装のガラスに反射して、そこにもあそこにも。
2冊の著書に登場する作品はあらかた展示に出ているだろうと思いきや、そうでもなかった。あれほど褒めそやされていた司馬江漢が出ていないのは意外。北村四海の大理石像も観てみたかった。
今後、美術館をつくる計画が本格的に動き出して、ほんとうの意味での全貌が見られるとよいなと思う。
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