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江戸前探訪其の三 台東区雷門のおかめそばと花まき

柳橋の刃物屋さんに所用がありました。
天然砥石から鉋まで、職人の街よろしく本職の方々の信頼に長年応えてきた老舗です。

其のお話はまた次回に譲るとして、帰りに少し足を伸ばして浅草で蕎麦を手繰ることにしました。

蕎麦は小生の好物の一つでして、こちらのお店にも定期的にお邪魔しています。直ぐ裏手に稲荷寿司の名店がありまして、そちらで折りを作ってもらってから伺うというのが最近のお決まりです。

テーブル席もあるんですが、座敷で頂くのが小生流です。写真の中央に、昔懐かしいお帳場も見えますね。

今の飲食店ですと、会計時は若いスタッフとやりとりすることが多いですが、昔はその店の旦那さんか、大女将と相場が決まっていました。代々続いている寿司屋ですと、現場を離れた先代が帳場に入ってることが多かったようです。まあ、職人を何人も抱えている大店の話ですが。

因みに、市場にも帳場システムがいまだ健在です。
朝のピークタイムになると符丁が飛び交い、大店の帳場は戦争のような忙しさになります。まあ、その話はまた別の機会に。

話を蕎麦に戻します。

蕎麦っ喰いが好んで食べるのは『もり』『ざる』もしくは『せいろ』。各店で呼び名は変わりますが、要は蕎麦つゆに付けて食べる冷たい蕎麦。一番シンプルで味の違いが分かりやすい。

それでも良かったんですが、何となく温かい蕎麦の気分でした。外は初夏らしい陽気でしたが‥(汗)

少し考えた末、おかめそばを注文。
具(種)は、島田ゆば、松茸に模した生麩、蒲鉾です。

蕎麦の上の種をおかめに見立てた蕎麦、ということは皆さんご存知だと思うので、もう少し深掘りしてみます。

はじまりは江戸末期、根津の太田庵という蕎麦店が元祖だと言われています。おかめはお多福とも呼ばれ、江戸庶民にも馴染みが深いものだったようで。それが蕎麦で表現され、こいつは縁起がいいわぇってことで大変に評判を呼んだそうです。

で、江戸中にそれを真似る蕎麦店が急増し、各店それぞれの種でおかめを作ったそうです。蒲鉾は共通してるんですが、それ以外が各店違うようで。椎茸や三つ葉、卵焼き‥現代では鳴門巻きや伊達巻きも(笑)

こちらのお店が、その原型に一番近いとされています。
島田ゆばが結った髪を。松茸の生麩が鼻を。蒲鉾が頬っぺたを表しているそうです。本来は松茸が採れる時期限定だった、なんて説もあります。

縁起を担いで食うっていうのが、何とも江戸っ子気質で。江戸前探訪のテーマにもピッタリです。

続いて花まきも注文。

かけそばの上に海苔を散らしています。

浅草海苔が採れるようになったのは江戸初期ですが、中期に入ると海苔の養殖が盛んになりました。
浅草は『浅草紙』の先産地だった為、その紙漉きの技術を応用して板海苔を開発したということです。これにより保存が効くようになり、一気に江戸中に広まったと。

因みに、和紙といっても種類は沢山ありまして。
浅草紙は主に再生紙で、ティッシュペーパーやトイレットペーパーとして利用されたそうです。

さて、花まきの由来ですが諸説あります。
海苔を散らした様が、桜の花を撒き散らしたようだ、とか。元来、海苔は磯の花、波の花に例えられたところからきているとか。

いづれにしても、江戸っ子のネーミングの妙、洒落のセンスを感じさせるエピソードじゃあございませんか。

花まきそばにも、流儀ってもんがございまして、このように蓋をした状態で供されます。

開けた瞬間に磯の香りが立ち上るっていう仕掛けですね。また花まきには葱はつけません。磯の香りをより楽しんでもらうためで、添えるのは山葵のみです。

極力、味の批評というか感想は申し上げない趣旨なんですが‥海苔と、蕎麦、かえし(鰹節)の鉄分が、濃口醤油と抜群に相性が良いんです。少し要素は違いますが、鉄火巻きに似てます。

こちらのお店、辛つゆで有名なんですね。
要は、甘さを極限まで抑えてます。
好みは分かれますが、小生は江戸前らしくて好きなんです。このキリッとした感じが。

江戸町内は男性が多いですし、肉体労働が基本です。汗も沢山かくので味付けも塩分が強いものが好まれたんですね。

加えて、西の公家文化と比べると、東の江戸は武家社会です。いつ隣国と戦になるか分からない時に、優雅にご飯を食べている余裕はありません。さっと食べれて満足感を得られるものを‥と求めた結果、味付けのはっきりした食べ物が好まれたのだと思います。まあ戦国時代に比べると、社会情勢が安定してきた江戸時代は少し事情が異なるかもしれませんが。


良い、悪いではなく。
その時代、その土地の人々に求められたものが受け入れられ、それが食文化になっていったわけで。そこを深掘りするのが、小生のテーマであったりします。

さて、長くなりました。

今回はこの辺でお開きとします。
江戸前の食べ物は文献によって諸説ありますので、細かい指摘はどうかご勘弁を‥💦

あ、
この後〆で粟ぜんざいを食べたのはナイショです(笑)

それではっ!

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