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街が育てたうま味 食卓を彩る「地ソース」

梅雨空の続く毎日ですが、いかがお過ごしでしょうか。こんにちは、ぶらっくまです。突然ですが、皆さんは「地ソース」と聞いて何を思い浮かべますか。地ビールなどの「地」、ご当地の「地」です。

お好み焼き、たこ焼きなどの「粉もん」が有名な関西には、多様なソースがあります。中でもここ兵庫、神戸は屈指の「ソース王国」です。今も各社が自慢の味に磨きをかけ、そうしたソース文化を一層盛り上げようと知恵を絞っている〝ファン〟たちもいます。

各社の個性、「学会」や「専門店」後押し/神戸地ソースを全国区へ/新たな活用法模索など奮闘

神戸のソース各社の商品が並ぶユリヤ=神戸市長田区五番町8

 洋食から粉もんまで支えるソース文化を育んだ港町神戸。個性豊かな会社がそろい、多彩な商品を誕生させてきた。今も各社が自慢の味に磨きをかけており、そんな神戸の「地ソース」を愛してやまない人たちもいる。「学会」を組織したり、豊富な品ぞろえで販売したり。「ソースのまち」の応援団として、神戸地ソースを全国区へ押し上げようと知恵を絞っている。

 今春、オリバーソース(神戸市中央区)の本社食堂で、ソースを使った料理の試食会が開かれた。
 主催は、港町神戸のソース文化を探求する「神戸ソース学会」。神戸のまちや地ソースを愛する人たちの集まりで「神戸地ソースを使った料理メニューを試し、新たな活用法で全国区にしていこう」と企画した。
 当日は、料理研究家HITOMIさんが、とんかつソースで作るホットサラダやハッシュドビーフ、どろソースグラタンなど6品を調理。どろソースと生クリームを煮詰めてグラタンソースにしたり、同量の水と合わせてステーキソースを作ったりした。HITOMIさんは「家で総合調味料として手軽に使えるのが発見」と話す。
 オリバーの道満龍彦取締役も「新たな可能性を教えてもらった。どろソースを全国へ広げる鍵になる」と期待を寄せる。
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 お好み焼き店など粉もんの店が集まる長田にある酒販店「ユリヤ」(神戸市長田区五番町8)。3代目の中島吉隆代表は「いつからかソース専門店だと思われている」と笑うが、店内には神戸地ソースを中心に100アイテム以上がそろう。
 ソースの品ぞろえを増やし始めたきっかけは、阪神・淡路大震災。被災し地元を離れた人たちが「神戸のソースじゃないと口に合わない」と、商品を購入したという。
 「ソースは神戸のもんやと思うようになった」と中島さん。スパイシーな味が特長といい「甘めのソースでも、スパイスの風味が感じられる。小さい頃から食べていたら、神戸の人の口になる」と話す。
 大手セレクトショップ「ビームス」による日本の魅力発信事業とコラボし、ユリヤ監修ソースも商品化した。中島さんは、オシャレなイメージを神戸のA面とするのに対し「『B面の神戸』を象徴する土産物として地ソースを定着させたい」と、神戸6社の商品PRに力を注いでいる。

2024年6月24日付 神戸新聞朝刊記事より
とんかつソースで作るホットサラダ=オリバーソース
どろソースグラタン=オリバーソース

阪神ソース、オリバーソース…神戸市内では6社が生産/それぞれ特色ある味わい

 「スパイシー」な風味を特徴とし、神戸で早くからソースづくりが行われた背景には、神戸港から輸入される豊富な香辛料の存在があったという。神戸ソース学会によると、現在も市内で6社が生産しているという。
 「現存する日本最古のソース会社」という阪神ソース(神戸市東灘区)は、創業者安井敬七郎が輸入ソースをベースに、より日本人に合うように研究を重ね、1885(明治18)年に完成させたのが始まりという。さらに英国でソースづくりを学び、神戸に工場を構えて国産ソースの基礎を築いた。
 関西で知名度抜群のオリバーソース(神戸市中央区)は、日本で最初に「とんかつソース」を誕生させた。お好み焼やたこ焼に濃厚ソースをかける関西の食文化を花開かせた。
 また「長田の味」として人気を誇る「ばらソース」など、6社それぞれの特色ある味わいにファンが多い。

2024年6月24日付 神戸新聞朝刊記事より

上の記事にも出てくる神戸のオリバーソースは昨年、創業100年を迎えました。その際の社長インタビュー記事からは、ソースへの熱い思いが伝わります。

オリバーソース 粉もん文化支え100年/次代の食卓 意識した新たな商品を

かつてお好み焼き店で実際に使われていた価格表の前で、「どろソース」を手にするオリバーソースの道満雅彦社長=神戸市中央区港島南町3、同社本社

 お好み焼きに濃厚なソースをかける文化に火を付けた日本初のとんかつソース、そばめしブームとともに人気を博した看板商品のどろソース…。粉もん文化を支える老舗は、2023年3月で創業100年を迎える。
 「今まで培ってきたものをベースに、新たな事にも果敢に挑戦したい」。3代目の道満雅彦社長(70)は、新たな売り方の模索、ソースのリブランディングに余念がない。
 大阪のしょうゆ醸造蔵の次男だった祖父が1923(大正12)年、前身の道満調味料研究所を設立。48年、父の社長時代にはとんかつソースを開発した。とんかつは関西人になじみがなく当初は売れなかったが、次第にお好み焼きやたこ焼きにかけるのが定番となり大ヒットする。
 後を継いだ道満氏は93年、ウスターソースをつくる際にできる原料の沈殿液を使った「どろソース」を発売。「安定した『どろ』をつくるため試行錯誤したが、今はさまざまな商品の隠し味にも使っています」。会社の味を支える存在に育てた。
 100年の道のりは平たんではなかった。神戸大空襲と阪神・淡路大震災では、いずれも完成間もない本社工場が焼失。「血のにじむような歴史があって、試練の度に新たな挑戦で乗り越えてきた」と振り返る。
 時代に合わせて販路も開拓してきた。かつての町の酒販店から、スーパーなど小売店へ。さらに現在は業務用にも重きを置く。新型コロナウイルス禍で加速したインターネット通販にも対応し、一昨年に公式のオンラインショップを開設。交流サイト(SNS)にも力を入れている。
 「欲しい人に届く商品づくりが大切」と、多品種少量生産に向けて昨年新たな機械を導入。阪神・淡路大震災から28年の先月17日に、初めてその機械でソースを仕込んだ。「震災では1人の社員が亡くなり、1月17日は毎年鎮魂の思いを込めてソースをつくってきた。新たな一歩を踏み出すとしたらこの日しかない」
 100周年を機に製法や原材料の見直しも進める。今春発売予定の新商品は、昔ながらの製法の最高級ウスターソースと、開発が進む代替肉など次代の食卓を意識し、新たな味わいに仕上げたとんかつソースのセット。「100年の答えと未来を見据えた商品。歴史を大切にしつつ、食の変化に合わせ展開していきたい」。力を込めた。

 〈データ〉1923(大正12)年、道満雅彦社長の祖父、清氏が神戸市兵庫区で創業。66年現社名に。ウスターソース発祥の地、英国ウスター市のソースメーカーの社名を受け継いだ。道満社長は甲南大卒。2022年9月期売上高は23億円。資本金9960万円、従業員68人

2023年2月16日付  神戸新聞朝刊記事より
家庭用と業務用で200種以上を数えるオリバーソースの商品の数々

神戸だけではありません。兵庫県の西部にも、こだわりの地ソースがあります。

お好みソース ルーツは姫路?/1951年創業、太子の「メイジョーソース」/「天下の名城」から社名と商品名

創業当時の看板を手にする小嶋昌一社長=兵庫県太子町矢田部

 粉もん文化に欠かせないのが、お好み焼きの味を決めるソース。関西には醸造元も多いが、商品名「お好みソース」の発祥かも知れない会社が兵庫県太子町にある。戦後、姫路で創業したメイジョーソース。社員数10人強と規模こそ小さいが、社名は世界文化遺産・国宝姫路城からいただき、味を守り続けている。

 現社長・小嶋昌一さん(69)の父昭次さんが1951年、国鉄(JR)網干駅そばで創業した。播磨は古くから醸造業が盛んで、酒やしょうゆ蔵が多く、知人からソースを勧められたのがきっかけ。商品名は「アサヒソース」で、昌一さんは「創業地が朝日山の麓だからかな」と想像する。
 ソース造りは午前3時、4時から釜にまきをくべて炊きあげた。夜が明けると、数日前に炊きあげ、つぼに詰めて寝かせておいたソースを姫路の飲食店へリヤカーで売りに行った。店主からソースの感想や要望を聞き、改良につなげる。このサイクルが功を奏した。ソース業界は戦前に創業した会社が多く、後発ながら販路を広げていった。
 昌一さんは、お好み焼き店向けに「お好みソース」と名付け、販売したのは「創業当時」(51年)と聞いているそうだ。「関西で一番早かったと思う。インパクトある名称のおかげで売れたのでは」。ちなみに「とんかつソース」の生みの親で、今春に創業100年を迎えたオリバーソース(神戸市)によると、濃厚なとんかつソース発売(48年)を機に、関西で粉もんに濃厚ソースを使う食文化が開花したという。一方、オタフクソース(広島市)の「お好みソース」誕生は52年だった。
 業容拡大で太子町へ移転し、60年に「天下の名城・姫路城」にあやかって、社名と商品名を「名城ソース」に改めた。ただ、姫路以外では「なしろ」と読み間違われることも多く、97年に社名をカタカナとし、商品名は漢字を通してきた。
 粉もん文化の関西はソースへのこだわりも強い。町を歩けば、熱い鉄板ではじけるソースの香りが、店先から流れてくる店も多い。昌一さんも当然、ソース派。カレーや目玉焼きにもかけるが「ソースは脇役」と言い切る。「ソースの味が勝ちすぎると、お好み焼きをもう1枚食べようとならない」。理想はピリッとパンチがあって、食欲をそそるソースだ。
 20年前から「地ソース」を切り口に発信する昌一さん。今年は姫路城が世界文化遺産登録30年にあたり「味がぶれることなく、『名城』の名に負けないソースを造り続けたい」と話す。

2023年4月22日付 神戸新聞朝刊記事より
メイジョーソースの多彩な商品

〈ぶらっくま〉
1999年入社、神戸出身。私も神戸の地ソースが大好きです。ソースの記事や写真を見ているだけで、鉄板の上でソースがじゅーと焼かれる音と匂いを思い出し、粉もんが食べたくなってきました。ソースといえば昔、「元祖ウスターソース」とされる英国の「リー・ペリン」を口にした時は、日本のソースとはまた違う味わい、おいしさに驚きました。