最後の写真 【30秒で読める怪談】
40代Cさんの話。
Cさんのお父さんは数年前に亡くなっており、今は母親と二人暮らし。
お母さんは体が丈夫で、ほとんど医者にかかった事がないのが自慢だった。だが、半年前の検診で癌が見つかった。
少しまえから体調の変化を訴えていて、Cさんは病院へ行ったらと勧めていたのだが、もともと医者に通う習慣が無かったことが災いし発見が遅れた。
入院してからは検査と投薬の日々。
独身だったCさんは足しげく病院に通い、担当の先生の説明に耳を傾けた。
レントゲン写真を見せられ、癌の進行を告げられる。
未婚だったCさんは母のいない孤独な生活を想像してしまい、悲しさと不安の入り混じった、何ともやるせない気分になったそうだ。
そしてある日の事、いつものようにCさんは診察室で先生の説明を受けた。
治療もむなしく癌は進行しており、お母さんはもう長くないという。
「最期は自宅で過ごさせてあげるのがいいかもしれません」
そんな先生の提案を聞きながらCさんは気が付いた。
レントゲン写真がない。
いつもはレントゲン写真を見ながら先生が説明する。
「先生、レントゲンは・・・?」と尋ねると先生の顔が曇った。
「いえ、もうご覧になる必要もないかと思いまして」と先生。
しかし釈然としないCさんは見せて下さいと頼む。
先生は少し考え込んでから、分かりましたと言う。
「ただ、あまり気にしない方がいいです。」
何のことかと尋ねるCさんの前で先生はレントゲン写真を机に並べた。
三枚あるレントゲン写真、その中の一枚は背骨のものだ。
それを眺めてCさんは気付いた。
下の方に何か黒いゴチャっとした線がある。
それが漢字だと気づくのにさほど時間はかからなかった。
「終」、と書いてあった。
背骨の付け根辺り、やや左寄りに。
毛筆で描いたような、細い、それでいて妙にしっかりとした字。
「機械の故障ではありません。でもこれが何かは私にも説明できません。」
Cさんと目線を合わせず先生が言った。
Cさんの母親はそれから数週間後に亡くなったそうだ。
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