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まめごはん

「まめごはんは 母の味。」

「豆ごはんが好きなんだよ」
と、グラスを傾けた私がちょっと回らなくなってきた口で彼女にそういうと、彼女が即座にこう応えたのだった。

それは誰かの詩の一節だ、ということだった。彼女はその後に続けてさらさらとその詩をそらんじてくれた。

彼女は聡明で記憶力が抜群で、時々そうやって詩や小説や偉人の言葉などをとうとうと語り出すときがあった。

そういう言語的記憶力だけではなく全般的に鮮明な記憶に欠ける私からすると本当に神業としか思えなく、その時もまるで吟遊詩人に謳わせる王様にでもなったかのような気分で彼女の声にただただ心地よく耳を傾けていた。

その詩は今ではそのイメージすらおぼろげになってしまい、たしか初夏の風が青々とした草原を吹きわたる、というような感じだったなぁと思うのだけれど、冒頭の

「まめごはんは 母の味」

というフレーズは、私の記憶がどんなに不鮮明で混沌としていても、いつでも同じ場所に確固として存在している。

私の、ちょっとほろ苦い家族との関係の中でほろりと心がゆるむ象徴でもある「豆ごはん」を、「片付ける場所はここだよ」とその時教えてくれていたのかもしれない。

豆ごはんのレシピのマクラの文を書いて
今やっと気がついた。


あれから40年近くなるのか。

彼女はいま、どうしているだろう。


わが家の「豆ごはんレシピ」


《材料》  

「ウスイエンドウ」がベスト。関西では普通に出回るが、東京では入荷は少ない。炊く直前に鞘から出すのがベスト。量は適宜。多い方が美味しい。

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(炊く直前に鞘から出す)

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(ウスイエンドウ。目が黒)

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(スナップエンドウ。目が白い)

米、塩(米1合につき小匙1/2)、水、昆布(適量)。

《炊き方》

普通の炊飯と同じ。米、水を入れ、分量の塩を水に溶かし、昆布を置いて豆を乗せる。

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*塩と昆布だけのレシピは母から。母のレシピは残念ながら私にはほとんど伝わっていないので、これは数少ない伝承レシピ。

*同じく塩と昆布だけのレシピを「日本のおかず」(西健一郎)に発見。他にも塩と昆布だけレシピを推す文章は過去にどこかで読んだことがある。ウスイエンドウの豆の旨味が絶妙に米に移るので、おすすめします。

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