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熱あんのにそれはきついっす

関節が痛い。あれ、熱っぽいかなと思ったのも束の間、すぐに体温計が38°Cを叩き出した。子どもにうつってはいけないと、距離を取り、お風呂と寝室は別にした。次の朝、やっとのことで布団から這い出し、ふりかけ納豆ご飯を子どもに食べさせ、自分はまた布団に戻った。
そうこうしているうちに、夜勤明けの夫が帰って来て、検査キットを渡され、言われるがままに実施するとコロナ陽性が判明した。
私はコロナウィルスに感染したのである。
今や分類も第五類になり、世間的な扱いは変化してはいるけれど、多岐にわたる症状や後遺症など決して油断できない感染症であることは自分の経験上知っている。
それだけに、とにかく家族にうつしてはいけない、子どもが重症化してはいけない、と家庭内での扱いも厳重で、私もさらに「隔離」されることになった。隔離なので、寝ている部屋以外の他の空間に行くことは許されない。でも、生理現象は止められないのでトイレには行かねばならない。幸い、現在暮らす家ではトイレが2箇所あるので、ひとつは私専用となった。
夫が昼ご飯を作って子ども達と食べているようである。ありがたい、よろしく頼んだ、と思っていたら、ガラガラとふすまが開いて、ドンと何かが置かれた。「早く、冷めないうちに食べて」
首をもたげて見ると、そこには、スパイスカレーが置かれていた。え、いやいやいや、違うでしょ、熱あんのに、これじゃないでしょ、と思ったけれど、食べないと治らない、食べた分だけ良くなる、とどこかで強い使命感のような思いにかられ、仕方なく、体半分起き上がって食べた。完食した。
考えてみると、結婚してから、夫が寝込んだ経験は、2、3回である。その際、私は、夫に食べられるものを聞いてご飯を出してきた。子どもが寝込んだ際も同様である。具合が悪い人の希望を聞いて食べられる物を出す、その姿勢は貫いてきたつもりだ。
その後、夕飯にまた、そのスパイスカレーが、きしめんにかけられて、私の元に置かれた。違う、違う、そうじゃない、と思ったので、これは食べられないから下げて欲しいと言った。たくさん言いたいことはあったが、夫も夜勤明けで疲れているのに子どものことや家のことをやってくれている手前、それ以上は言わずにおいた。その後、2時間ほど迷ったが、勇気を出して、おかゆが欲しいとLINEした。そうしたら、わがままばっかり言うな、と言われた。結局、夕飯には何も出されず、次の朝、おかゆと例のスパイスきしめんが出された。
どうして、こんなにスパイス〜推しなのか。確かに、スパイスを調合してカレーを作れるのはすごいけれど、38°C前後の熱がある時に、そうそう食べられるものではないと思う。こんなカレーにまみれた麺ではなく、普通のかけうどんが食べたい。あっさりした麺つゆ味の。
これはわがままなのか。私はわがままばかり言ったのか。
私は、心に誓った。絶対に良くなって、わがままだと言ったやつの歯ブラシで、洗面台のドロドロのところを磨いてやる、と。
今、徐々に熱が下がりつつある。洗面台なんてきっと夫は掃除してないだろうから、この後、私が掃除するのが楽しみです。

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