ショートストーリー 冷凍みかんと理科の実験

冷たさが体に染み渡る。
口の中でじっくり表面の氷が解けていく。
噛めるくらいに溶けるまで待つ間、コロコロと転がす。
冷たさで舌が麻痺する感覚は、面白くて癖にになる。
シャリシャリの天然のシャーベットは、美味しさだけでない旨みが一房一房に詰まっていた。

理科の実験は、好きじゃない。
説明されても、手順通りやっても、成功しても、失敗しても。
書いてることをやっている。
というつまらなさがあった。
予想を超えることがないと、どうしても楽しめない質で、仕方なくというかたちで実験室へ行く。
3時間目が終わって、十分しかない昼休みの間にダラダラと向かう。

渡り廊下に出ると、給食場から良い匂いがしてくる。
いろんな食材の匂いが混ざっていて、匂いから給食のメニューを思い浮かべる。
何かが香ばしく焼けた匂いからは、肉や魚を想像するし、給食場からたちこめる湯気は温かい味噌汁を連想する。
それだけで空腹を加速させた。

渡り廊下から、ボーっと給食場を眺め下ろしていた。
そこから実験室へ向かったのは、授業の鐘がなってからだった。

先生には遅刻したことを咎められた。
罰として先生の助手役をさせられた。
先生の支持通りに、ガスバーナーに火をつける。
今日はカルメ焼きを作るとかなんとか。

よくテレビとかで見る実験の定番。
知ってることをやっても面白くないなーと、先生の横でぼんやり突っ立っていた。
砂糖を溶かして、卵白と重曹を混ぜる。
はいはい、膨らむんでしょ。
そんな風に予想していた。
お玉の中の材料は、ムクムク膨れる。
その速さ、その大きさは予想を遥かに超えて膨らむ。
溢れるんじゃないかと思わず、おおーと声が出た。

先生はもう一度熱すると、いとも簡単にカルメ焼きは剥がれてコロンとキツネ色のお菓子がアルミホイルの上に転がった。
ビックリした。
初めて、実体験をすることを楽しめた。

先生の見本が終わり、それぞれ班に分かれた。
規定量の砂糖と重曹と卵白をテーブルに持ち帰る。
さっき見たことをもう一度やる。
楽しい。そして美味しい。
あまりに夢中で、四時間目はあっという間に過ぎていった。

給食の時間が始まって、味噌汁や焼き魚にぐうと腹が反応した。
四時間目が始まる前に想像通りのメニューが並んでいた。
想像出来なかったものと言えば、冷凍みかんがあったことだ。

ピリリと痛む左腕を見る。
いつのまにか火傷をしていたようで、手を合わせる前に冷凍みかんで火傷したところを冷やす。
実験のカルメ焼きをまた思い出す。
甘い香りが、服に染み付いているみたいだった。
先生は実験が終わると言っていた。
料理は科学が詰まっていると。

もしかしたら、冷凍みかんにも科学があるのだろうか。
そう思うと、次の実験が楽しみになってきた。
冷凍みかんの生とは違うシャリシャリした食感、甘み。
そういえば、香りの無さには何か秘密が詰まっているのだろうか。
勉強をすれば分かるのだろうか。

皆が給食に手を付け始めても、湧いてくる不思議は止まらなかった。
つまらないと思っていた授業が一瞬で一転した。

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