ショートストーリー 新幹線とアイス

窓から見える景色もヒュンと高速で過ぎていく。
見応えもなく、楽しみにしている車内販売を心待ちにしていた。

カチン、カチン。
アイスクリームの甘さも欠片もない。
新幹線の中で買ったアイスはいつもこうだ。
硬いなぁ。
そう思いながらもチマチマ削る。
削り出したアイスをちょっとずつ舐めとる。
甘さは感じないのにバニラビーンズの香りだけはしっかりして、いかにも高級そうな雰囲気を演出している。

アイスを買った時に、販売員のお姉さんから、新幹線が次の駅に到着してホームを出てから食べ始めるくらいの方が良い。
と聞いた。
だが、我慢できずに開けてしまう。

細かく削って、掘り進める。
無駄な作業と分かっていても、ついついやってしまう。
これが案外楽しかったりする。
真剣にカリカリカリカリ、アイスを削る。
結局、アイスが緩く食べやすくなったのは、販売員のお姉さんの言うとおりだった。

一ヵ月後、出張でまた同じ新幹線に乗ることになった。
アイスを買って、すぐに開ける。
同行していた部下が、呆れていた。
誰も取って食べたりしないてすよ。
と苦笑いし、彼は次の駅までスマホをいじる。

そうは言っても、このカリカリが新幹線アイスの醍醐味だ。
私は部下の隣でチマチマと食べていた。
彼は、新幹線アイスを食べ慣れていないのだろう。
しきりにアイスを気にしていた。
しかし、彼がどんなに触ってみてもアイスは、柔らかくならない。

私は部下に、販売員のお姉さんの教えを教えた。
彼は、そんなに待つのかとげんなりして、次の駅のアナウンスが聞こえる前に、私と同じようにアイスを削っていた。
無言で。仕事より集中していたかもしれない。

しかし、その無言の時間がなんとも心地よかった。
何かを喋らなくてはいけないようなプレッシャーもなく、ただ二人でプラスチックスプーンの尖端に集中していた。

製品の売り込みが上手く行った帰りの新幹線でも二人で同じことをする。
彼のアイスを削るリズムは、来たときよりも軽やかだった。
仕事が上手くいった喜びが伝わってきて、私も年甲斐なく嬉しかった。

次の駅のホームに残る人々を流し見ながら、緩くなったアイスを口に放り込む。
とろりと甘く、深く香るバニラが疲れた身体をさに染入った。

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