ショートストーリー ヘクセンハウス

生姜とシナモンの癖のある香りの壁に落書きをする。
ハートや星を散らばして、住みたい家を自分の手で形にしていく。

大工になったら、こんな気持ちなのかな。
ワクワクしながらクッキーをアイシングで飾る。
外側の窓、内側も壁紙風に飾る。
床に使うクッキーも絨毯のつもりで色を付ける。

テーブルも椅子もチェストも用意してある。
少しだけ装飾を施し、自分好みの小さな家にする。

町のパティシエのオジサンに頼んで、家で家を作る。
自分だけの夢が詰まった家だ。
子供の頃から、誕生日もクリスマスも入学も卒業も全部のお祝いをこのお店のケーキでしてきた。
ケーキだけじゃなくこの店は、シュークリームもクッキーも抜群に美味しい。

とくにクリスマスに使うジンジャーブレッドのクッキーは特別な味がする。
オジサンの息子が同級生で、羨ましいと彼に言ったら、次の日にクッキーをくれたことがあった。
その日から、ジンジャーブレッドクッキーの虜だ。

高校生になってすぐに店てバイトを始めた。
ジンジャーブレッドのクッキーを焼く姿を目に焼き付け、何度も家で試行錯誤した。
店のクッキーには敵わない。

でも、人に贈れるくらいの味にはなった。
世話になったお店とオジサンに、集大成を見せる。
私は、数カ月後の卒業と共にフランスへ修行に行く。
その前に、オジサンにお礼をしたかった。

クリスマスの時期は菓子屋は忙しい。
だから少し早めに、ヘクセンハウスを渡す。
オジサンには、渡す相手が違うんじゃないかとからかわれた。

もちろん、彼にも渡すけれど一番は師匠に決まっている。
そう言うと、オジサンは涙を袖口で拭いていた。

「これほど美味しそうで、食べるのがもったいない菓子は、パティシエ人生の中でも作ったことがないよ」
オジサンは頑張っておいでと私を抱きしめて、言ってくれた。
ちょうど帰宅した彼に見られ、可愛い嫉妬をしてくれた。
今年のクリスマスプレゼントはもらい過ぎなくらい幸せなものになった。

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