ショートストーリー コロッケ
コンビニの駐車場でサクサクホックリを味わう。
揚げたてのコロッケは、舌の上で飛び踊る。
口の中を転がる塊は涙が出るくらい熱く、美味しい。
代わり映えはしなくとも、それを求めてしまう。
自分の生活も特筆することない。
安定を求めて仕事に勤しむだけだ。
車内のラジオをつけてみる。
ラジオは昔から変わらない独特の籠もった音で、出迎えてくれる。
電波で繋がる名前も知らない人々と、今日も普通を分かち合う。
今日は新人アナウンサーがリポーターとして、道の駅の名物を紹介していた。
いつものゆるいラジオ番組なのに、少し緊張が電波越しにも伝わる。
聞き覚えのある道の駅のコロッケは、地元産のじゃがいもを使っているらしい。
僕の好きなゴロゴロタイプなんだとか。
今の今までコロッケを食べたのも忘れて、だんだん食べたくなってくる。
リポーターは続けて言う。
近くの牧場が仕立てたバターの香りがするとも。
ああ、たまらない。
デザートのソフトクリームまで食べている。
営業の合間で、あまつさえ狭い社用車でコロッケを食べている僕とは大違いだ。
僕だって……!
そう思えば不思議と行動も素早くなる。
シュッシュッパッのリズムでスマホを操作。
ゲーム画面を切って、電話帳から営業先を選択する。
自分から電話をするのも久しぶりだった。
呼出音をカウントする。
1、2、3と数に合わせて深呼吸する。
「お久しぶりです」
思わず端切れいい声が出た。
先方も少し驚いた様子だったが、返って好印象の様子。
そのまますぐにでも来て欲しいと言われ、電話を切った。
張り切ってアクセルを踏む。
アナウンサーが紹介していた道の駅にほど近い営業先へ出発した。
ラジオは初々しい声から、熟練のアナウンサーへと変わっていた。
いつものように、リスナーからのメールを読んでいる。
リスナーの日常話。
風呂上がりのアイスを食べられた話。
よくある日常の話。
それでも聞き流せなかったのは、さっき美味しそうにソフトクリームをすする音を聞いてしまったからだ。
コロッケもソフトクリームも捨てがたくなる。
信号待ちで、仕事終わりに食べるのは、どちらにするか悩むメールを番組へ送った。
安定を望む毎日。
忙しさの中ののほほんとして空気。
それを少しだけ変えて、新しい流れを作るのも楽しかったりする。
しばらくはコンビニのコロッケより、道の駅のコロッケを巡ることが習慣になるだろう。
どんなコロッケに出会えるか。
ラジオから流れる陽気な曲に合わせて、心のままに口笛を吹く。
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