ショートストーリー アイスケーキ
ひんやり冷たく、甘くて、綺麗。
生クリームとサンタ型のチョコレートでデコレーションされている表面に心踊った。
大きなボックスに入っているアイスを独り占めしたい。
ホールケーキを独り占めしたい。
その夢をいっぺんに叶えてくれるアイスケーキ。
今年のクリスマスの相棒だ。
一人暮らしで、サンタクロースどころか友達も訪ねてこないクリスマス。
せっかくなら贅沢を満喫したい。
そう思いながら、お店の人に予約した名前を告げて約束の物を受け取った。
持ち帰って、そうそうにケーキの箱を開ける。
サンタ型のチョコレートも、アイスケーキの上で踊っていて、祝福してくれているみたいだった。
いったん冷凍庫にしまい込み、缶ビールが冷蔵庫で冷えているのを確認した。
いいニオイのバスソルトを入れたお風呂に浸かる。
薔薇の香りに包まれ、ボッーとする。
足を伸ばして、ちょっとした浮遊感を楽しむ。
熱々になるまで身体を温めたあとのアイスケーキを思うと、今にも溶けてしまいそうなくらい多幸感にあふれる。
なのに顔に伝う水滴が、天井から落ちる雫と目から溢れる雫の区別がつかない。
薔薇色のお湯に顔を沈めて、落ち着かせる。
思い出すのは、去年も一昨年も友達と過ごしたクリスマス。
それが、毎月のような結婚ラッシュで12月の頭には独身は三人だけになってしまった。
たった三人でも楽しいはずだと、高をくくって、私は高らかに今年のクリスマスパーティーの開催を宣言した。
ケーキは、高校時代からの大親友が予約してくれて。
アルコールは、幼馴染の男友達がワインを用意してくれるはずだった。
ホラー映画から恋愛映画、コメディ、スプラッタもありとあらゆる名作を鑑賞する予定で、家庭用のスクリーンの調子を一週間前から確認していた。
しかし、クリスマスイヴに彼らは浮かれながら私に連絡をしてきた。
「聞いて! 私達、付き合うことにしたの!」
最初何を言っているのか分からなくて、聞き直したくらいだ。
私のプレゼントを用意するために、二人は出掛けていたらしいが、そこでイイ雰囲気になったらしい。
ハイテンションな二人から、私は淡々とした返事でいきさつを聞きながす。
あまりに突然なことに、それしか出来なかった。
浮かれた説明しているうちに、二人も冷静さを取り戻したようだ。
とても言いにくそうに口籠りながらも
二人で過ごす初めてのクリスマスだからパーティーは延期でと断られた。
女友達が慌てたように、予約したアイスケーキをお詫びに譲ってくれるということだった。
お店で彼女の苗字を告げたとき、この苗字を彼女が名乗るのも今年で最後かもなどと、ちらりと思ったりした。
そこまで思い出して、息が続かず浴槽から飛び出る。
甘い香りのする空気を名一杯吸い込んで、お風呂から出た。
クローゼットに仕舞い込んだ二人へのプレゼントは、初めからなかったことにする。
あれも私のものにするんだ。
そう意気込んで、バスタオルで鼻水を思い切り拭き取った。
自分から香る薔薇のニオイに酔いしれながら、映画鑑賞の用意をする。
ビールとアイスケーキに大きめのスプーン。
準備が整った。
そう思ったのに、インターホンが鳴り響く。
どうせ、ピザの宅配が部屋番号を間違えたのだろう。
この時期はパーティー用のピザの注文が多いからと、逆に同情した。
押しまくられるインターホンも同情の前には、なんの苛立ちも怒らず平常心で出ていった。
「部屋番号間違えてますよ」
言いながらドアを開けると
「メリークリスマス!」
と元気なサンタクロースが二人立っていた。
二人は男女で私のよく知る友達。
呆然としていると、ドッキリ大成功!
という看板を掲げる二人。
嬉しいやら悔しいやらでグチャグチャになった感情をメリークリスマスの言葉にのせた。
あまりの大声の祝福の言葉に、二人は耳を塞ぐも、笑いながら部屋に招かれてくれた。
準備万端のアイスケーキを三人で食べる。
サンタクロースのチョコレートを映画そっちのけで取り合った。
クリスマスが過ぎれば、また友達同士に戻ると思っていたのに、男友達からの贈られたクリスマスプレゼントが指輪だったことで、私の感情はまたグチャグチャになった。
女友達は、いい加減付き合えと、やっぱり笑いながら部屋を出ていってしまい、残された私はとりあえず火照った顔を冷凍庫の残りもののアイスケーキで冷やすのだった。
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