ショートストーリー おはぎ

買ってきた粒あんを丸める。
何個も何個もひたすら丸める。
手が黒くなるのが、最初は気になったけど。
泥団子を作っていた子供時代に戻ったような気になる。
ひんやりした粒あんを、一口分手に取って掌で転がす。
だんだん大きくなってないか、時々目視して餅米が蒸されるのを待つ。

粒あんを目にした時、ふと作りたくなった。
何か思い出があるわけではない。
ただ、作ったことのないものへの興味。
餅米ときなこもついでに買って、レシピをスマホで探す。
思ったり通り、難しい手順はない。

ただの思いつきで始めたが、なかなか段取り良くできている。
よくある核家族構成の我が家は、両親と私と姉だけて住んでいた。
お婆ちゃんもお祖父ちゃんも、わりと都会の人でおはぎなんて作ってくれたことはない。
買ってくるのは毎回ケーキ。

ケーキも嬉しいし、美味しい。
でも、田舎のお婆ちゃんやお祖父ちゃんに憧れもあった。
私が、和菓子屋に行く習慣を持つのも、元を辿ればそういうところがあるのかもしれない。

あんこは好きだ。特に粒あん。
皮が邪魔すると家族は嫌うが、粒が潰れる感覚が洋菓子で育った私には新鮮だった。

きなこをバットに出して塩を少々混ぜる。
熱々だった餅米を混ぜながら潰す。
ご飯を潰す背徳感に、しばらく酔っていた。

きなこも、実はあまり馴染みがない。
和風スイーツを食べるときに食べるくらいで、餅米とはいえご飯につけて食べて美味しいのか懐疑的だ。
でも、餅につけて食べるくらいだからと言い聞かせて、せっせとあんこに餅米を着させて、きなこで化粧する。

出来たてのおはぎは、プニプニ。
さっきまでご飯にしか見えなかった餅米が、もうお菓子になっている。
堪らず、一旦手を止めおはぎを口にする。
ご飯なのにトロッとした口溶けで、あんことすぐに混じり合って消える。
小豆の粒感が、余韻を残し良い仕事をする。

あっという間に消えたおはぎ。
もっと食べたくなって、手を動かす速度を早めた。
最終的に沢山出来たおはぎ。
独り占めしたいくらい美味しいけれど、それ以上に誰かに食べてもらいたい。

さっそく姉に連絡し、おはぎを透明な弁当パックに詰めた。
私の祖父母は、都会育ち。
でも私は、このおはぎで田舎の人の気持ちが分かった。
「美味しいから食べて見て!」
姉の家に行き、迎えてくれた姉と甥っ子、姪っ子に顔を見るなりそう言った。

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