ショートストーリー ベイクドハム(クリスマスハム)

甘じょっぱくて癖になる美味しさに懐かしさを覚える。
初めて食べる薄ピンクのしっとりしたハムは、風情があった。

オタク文化も今や世界に広まった。
どこにでもいるサラリーマンが、世界中に友人、知人を持つ時代になった。
毎朝ソシャゲでガチャを回すのが生き甲斐でも、世界中のオタク仲間達と当たったとかハズレたとか言っていると楽しさも百倍だ。
特に、各種イベントでクリスマスの時期は忙しさも百倍。

今は『イヌオトコ、ネコムスメ物語』にどっぷりハマっている。
世界に散らばるオタク仲間達も、周回イベントを走り回ってる。
クリスマスにサンタコスは必須。オタク会の常識だとチャット欄は賑わう。
刻一刻と迫りくるクリスマスに限定衣装を入手するため、今日も今日とてイベント周回。

日曜日は時差があってもチャット欄は、賑わい続ける。
今日は、クリスマスの過ごし方で盛り上がる。
もちろん、ソシャゲのイベント参加が大多数だ。
だが、家族と過ごすという穏やかな仲間もいた。

クリスマスの食事の話は、ソシャゲ意外の話の中で一番盛り上がる。
各地域によって、特色が出ていた。
日本のフライドチキンへのリスペクトは、もはや神がかっているらしい。
日本は、フライドチキン屋のオジさんが真のサンタだという結論が出て大笑いした。

オタク仲間から、自分指名のチャットが流れる。
お前もフライドチキン食うのか?
確かにフライドチキンにしようかと思っていたが、ベイクドハムが気になっていた。
そう返すと、ベイクドハムを食べるエリアのオタクが、ウォーっと熱を持って良さを語ってくれた。

それからしばらくして、クリスマスプレゼントの話に流れる。
こちらは、たんたんと、粛々と。
だけど秘めたる熱は、マグマのようだ。

公式グッズはもちろん。
概念グッズも手を出したい。
そんな話だ。
接待用のゴルフバッグがイタバに変わりつつある。
その言葉だけで、同類がチラホラと自分もだと例を上げていく。
そんなとりとめのない話を延々と繰り返した。

睡眠や食事に抜ける仲間達に挨拶を送り合う。
自分もそろそろと、一旦抜けた。
冷蔵庫を開けると、母から贈られたお歳暮のハム。
仲間達に聞いたベイクドハムというものが気になって仕方なくなってくる。

レシピをネットで探して調味料を作り、さっそく焼いてみる。
材料が揃いに揃っていて、先月別れた元カノに感謝する。
オーブンは無いし、一人分の小さなサイズなので、フライパンで焼いてみる。
ものは試し。と焼いてはタレを塗り込んだ。
甘く焦げた臭いが食欲をそそった。

完成したハムを切って、つまみ食いをする。
甘じょっぱさに既視感を覚える。
この時期の日本の甘じょっぱさ代表といえば、砂糖じょうゆで食べる餅。
これに通ずる懐かしさがベイクドハムにはあった。

立ちっぱなしで、ハムをスライスしては食べるを繰り返した。
あまりの美味しさと懐かしさに、つまみ食いスタイルで食べ終えた。
そのことを仲間達に伝えよう。
と意気揚々とパソコンへ戻る。

周回で溜まったゲーム内コインでガチャを回す。
クリスマスには間に合ってくれと、願いながらも駄目だろうなと半ば諦めていた。
出てきたのは、キラッキラのサンタコス。

思わずウォー!と声が出た。
チャット欄にサンタコス入手とベイクドハムを食べたことだけ手早く打つと、ざわめく。
盛り上がりが最高潮に達すると、ベイクドハムを食べるとサンタコスが貰えると縁起物扱いになっていた。

ただ、餅のような懐かしさを持つベイクドハムには、何らかの力があっても可笑しくない。
興奮しきった頭で、そんなことを考えていた。

そして、サンタコス入手の祭りも落ち着くと、またプレゼントの話が出てくるのだ。
堂々巡りする話は、周回イベントと似ているが、これが心地よいクリスマスの味になる。

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