ショートストーリー 無水トマトカレー

はっきりと合コンとは呼ばなかった飲み会。
だけど、皆一様に下心を隠し持っていた。
分かりやすい態度をしていたのは私くらい。
でも、それくらいしなきゃ通じない相手だった。

互いに端の席。
遅れてきた私と、友達に連れられて来た彼とは、理由は天と地の差ではあった。
彼の態度ももちろん私とは正反対で、ただ静かに酒を飲むというより味わう姿がかっこよかった。
それは、まさしく一目惚れで、私は挨拶もそこそこに彼を質問攻めにしていた。

趣味のはなし。仕事のはなし。休日の過ごした方。果てには猫派か犬派か。
一人で過ごすのが好きだと言う彼は、そのどれもが一人遊びに通ずるもので、ゆっくりと紡がれる言葉さえも真逆の人間性に感じた。

ウットリしながらも次々と彼の好みを聞いた。
好きな食べ物は、カレー。
とくに牛すじカレーが好き。
その言葉に、私は微かな希望を見出していた。
カレーなら料理が苦手な私でも作れる!
そんな馬鹿な考えだった。

連絡先を交換した後、私はさっそく深夜にも営業しているスーパーに立ち寄った。
少し酔いが回った状態だったけど、気分はすこぶる良く、彼を思うと何でも出来る気がした。

目分量で牛すじとカレールーを買い込んで、真夜中に牛すじカレーを作った。
出来上がった牛すじカレーは、硬くて脂でギトギト。
とても人の食べられるものでは無かった。
カレーもまともに作れない自分に、勝算なんて無い。
そう思うと、惨めったらしくなり、飲み会を共にした女友達に泣きついた。
深夜3時に電話をかけて、カレーが作れないという馬鹿な相談に彼女は呆れながらも真剣に答えてくれた。

まず、料理初心者の私でも、簡単に出来る無水トマトカレーの作り方を教えてくれた。
牛すじの下処理もままならず、圧力鍋も無い私に牛すじカレーはオススメしないと言われたのだ。
その変わりに、牛すじカレーの美味しい店を教えてくれて、彼をデートに誘うキッカケをくれた。

それから、私は一週間。
彼女直伝の無水トマトカレーを作り続けた。
一度、彼へ写真を送ると美味しそうだと一言返信してくれた。
あまりに素っ気ない返信。
でも、例え社交辞令だったとしても私は天にも登る気持ちだった。
だから思わず、今度、ご馳走します。
と送ったのだ。

美味しく出来たのも一週間ある内、たった一日のことだったけれど。
彼と会うまで、トマトの旨味がたっぷり詰まった焦がしてもいない、野菜も固くない、ミンチも入れ忘れていない美味しいカレーをマスターするつもりだ。

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