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【アルセーヌ・ルパン聖地】ルパンの脱獄ルート

アルセーヌ・ルパンが活躍したパリは、当時から大きく区画や土地の形状が変わっていないため、今でも小説の世界を辿ることができることがあります。
小説のアルセーヌ・ルパンオタクなわたしは、ルパンの小説に出てきた土地に行くのが大好き。第一弾は、「怪盗紳士ルパン」の中の短編「ルパンの脱獄」。ルパンがイタズラ心を起こしてパリさんぽを楽しんだ脱獄ルートをご紹介します。

「ルパンの脱獄」ざっくりのあらすじ
フランスからアメリカ行きの大西洋豪華客船の航海中、人々の度肝を抜いた宝石泥棒事件。港で宿敵ガニマール警部に変装を見破られたルパンは逮捕され、フランスへと強制送還される。ところが、刑務所にぶち込まれたはずのルパンから名画の窃盗予告が届き、ガニマールもいっぱい食わされることに。世間の人々は恐怖半分、好奇心半分でこの怪盗の神出鬼没な活動を見守るのだった。
そしてルパンの裁判の日が迫ったある日、今度は警視庁が「ルパンが脱獄する」という兆候を嗅ぎつける。果たしてルパンは脱獄に成功するのだろうか?


脱獄ルートはこんな感じ

「ルパンの脱獄」で出て来る通り名を追いかけてみると、パリの中心地から左岸エリアが今回の舞台。パリはセーヌ川の川上(マップの右)から川下(左)に向かって左岸側を「左岸」、右岸側を「右岸」と言います。パリの中心地はシテ島という中州の島でして、中心地からほぼ真南に向かってルパンが「逃走」しているのがわかります。

さて、ルパンはどのように逃走し、最後どこに向かったのか?
小説の脱走ルートを追ってわたしたちもパリを散策しましょう。
まず、最初はマップのAの地点から。

”俗に『サラダの水切りかご』と呼ばれている護送車には、中央の通路をはさんで左右に五つずつ、合計十の仕切りがある。囚人は金属板で区分けされた狭苦しい仕切りのなかに腰掛け、通路の端で看守が見張っている。
ルパンは右側三番めの仕切りに入れられた。重い車が走り出す。オルロージュ河岸をすぎて、裁判所の前を通るのがわかった。”

セーヌ川のシテ島にそびえたつ裁判所。建物の反対側にはパリ警視庁があります。ルパンは毎日ラ・サンテ刑務所から馬車で警視庁に護送されて取り調べを受けていました。
シテ島にはマリーアントワネットが囚われたコンシェルジェリーやノートルダム大聖堂があります。観光客もいっぱい。

”サン=ミシェル橋の半ばまで来たところで、彼はいつものように仕切りの鉄板を右足で押した。するとどこかの留め金がはずれ、鉄板はほんのわずかにずれた。前後の車輪のちょうど真ん中にいるのがわかった。”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
サン=ミシェル橋のど真ん中。かつてここを馬車で通ったんですね。

”ルパンは様子をうかがいながらチャンスを待った。護送車はサン=ミシェル大通りをのろのろとのぼっていく。サン=ジェルマンの交差点で車が止まった。荷馬車の馬が倒れて交通が遮断され、辻馬車やら乗合馬車やらがたちまち道路にあふれてしまったのだ。ルパンは鉄板の隙間から顔を出した。もう一台、別の護送車が並んで脇に止まっている。ルパンはもう少し顔をあげ、大きな車輪に足をかけて地面に飛び降りた。”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
サン=ミシェル大通り(Boulevard Saint-Michel)のサン=ジェルマンの交差点。ここから中央奥に向かって登り道。この辺で交通事故の混乱に乗じて護送車を飛び降りた模様。

”穏やかな天気だった。さわやかで、うきうきするような秋日和だ。カフェはどこも人でいっぱいだった。ルパンは一軒のカフェのテラスに腰をおろした。”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
左の歩道に上がってしばらく坂をのぼっていくと、Place de Sorbonne(ソルボンヌ広場)の前にカフェがあります。おそらくココのカフェのテラスですね!

”ビールの小ジョッキと煙草を注文する。運ばれてきたジョッキをゆっくりと飲み干すと、悠然と煙草をふかし、さらにニ本目に火をつけた。それからようやく立ち上がり、店長を呼んでくれとウェイターに言った。
店長がやって来ると、ルパンはまわりの客にも聞こえるような大声でこう言った。「申し訳ないが、財布を忘れてきたようだ。でもぼくは有名人だから、ニ、三日つけにしておいてもらえないかな。ぼくはアルセーヌ・ルパンだ」”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
煙草のかわりにポップコーンを。店長、ルパンのいたずらにびっくりしたでしょうね!

”スフロ通りをななめに横切って、サン=ジャック通りに入ると、そのままのんびりと歩き続け、途中でショーウインドの前に立ち止まっては煙草をふかす。”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
スフロ通り(Rue Soufflot)。正面はパンテオン。
サン=ジャック通り(Rue Saint-Jacques)。奥に向かって坂が上がっていっています。この辺でルパンは煙草をふかしたのかな。

”ポール=ロワイヤル大通りで方角をたしかめ、道をたずねてまっすぐサンテ通りに向かった。”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
ポール=ロワイヤル大通り(Boulevard de Port-Royal)。この辺まで南下すると市街地のはずれ。中心地から比べると少しさびしい印象。
こちらがかの有名なラ・サンテ刑務所があるサンテ通り(Rue de la Sante)。この坂をあがるとルパンの「家」でもあるラ・サンテ刑務所があります。

”やがて刑務所の陰鬱な高い塀が、目の前にそびえ立つと、塀沿いに進んで守衛の警官に近づき、帽子を脱いだ。
「ここはサンテ刑務所ですよね?」
「そうだが」
「自分の独房に戻りたいんだけどな。護送車から道路に振り落とされちまって。でも、そういう機会に乗じて逃げるのは嫌なんで・・・」
若い警官はうるさそうに言った。
「おいこら、いいからあっちに行け。さっさとしろ」
「ちょっと、失礼!ぼくの行き先はこの門のなかだ。アルセーヌ・ルパンを通さなかったら、あとでまずいことになるだろうよ!」
「アルセーヌ・ルパンだって!何を寝言を言っているんだ?」”

早川書房「怪盗紳士ルパン」より「ルパンの脱獄」
こちらがラ・サンテ刑務所の入り口。このあと「ルパンの脱獄」の一部始終がエコー・ド・フランス紙に掲載。人々は大笑いし、ルパン脱獄のニュースが聞かれないかと毎日期待するのでした。

こうしてぶらりパリ散歩の後で刑務所に戻るルパン。ルパンが本格的に脱獄を企てていることが次第に明らかになり、警備はさらに厳重になります。しまいには警視総監までが毎朝秘書に「まだヤツは逃げてないかね?」とたずねる始末。
そして、ルパンが「裁判には出ない」と予告していた裁判の日。ルパンは一体どうなってしまうのか?(知りたい方はぜひ読んでみてください)


パリはセーヌ川のあるシテ島周辺が一番標高が低く、中心部から四方へサラダボウルのように土地が盛り上がっています。脱獄ルートはひたすらゆるやかな坂道をあのぼっていきますので、実際に歩いてみたい時はスニーカーで歩くことをお勧めします。

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