百物語 第六十二夜

花嫁さんの介添人に選ばれたことがあります。
五歳のときでした。

親戚のお姉さんの結婚式で、ベールガールの役割をもらったのです。
お姉さんは、よっちゃんと言い、その当時28歳くらいの綺麗なお姉さんでした。私もたまに遊んでもらい、その度に綺麗でやさしいよっちゃんのことが大好きになっていました。

よっちゃんにはまいちゃんという妹がいて、綺麗なお姉さんとは対称的に、こちらは可愛らしい感じの女性でした。親戚の集まりでも、二人が並ぶとそこだけまるで空気が変わったかのように素敵な空間になり、たとえどんな面倒な理由で親戚の集まりが開かれたとしても、姉妹がその場にいるだけで、自然と争い事が避けて通るように不思議と解決していることがよくありました。

二人はとても仲がよく、結婚式の日も、お姉さんがお嫁にいくことが余程嬉しいのか、まいちゃんはとてもにこにこしていました。親戚の皆も、お客さんも皆嬉しそうににこにこしていました。

ところが、当日そんな和やかな雰囲気のなか、私はウェディングドレス姿のよっちゃんを見て、泣いて暴れてしまい、最終的にベールガールの役割をこなすことが出来ませんでした。

スタッフさんは「当日緊張して出来なくなることはよくありますよ」と宥めてくださいましたが、裏で一緒に私の準備を手伝っていた私の両親や親戚は、私の発言に凍りついていました。

「まいちゃんが、まいちゃんが笑いながらよっちゃんのドレスをいっぱい切ってるの」

私は泣いて訴えましたが、ほかの人には、ウェディングドレスを着て、人生で一番美しい瞬間を迎えるはずのよっちゃんしか見えていないようでした。
でも、私にはその美しいよっちゃんのドレスにまとわりつきながら鬼のような形相でビリビリに引き裂いて笑っているまいちゃんがどうしても見えるのです。本物のまいちゃんは、今客席に座っているよ、と何度両親に言われても、私は信じることが出来ませんでした。

いい加減にしないか!と、周りの皆が苛立ち始めましたが、そのなかで唯一私を信じてくれたのは、よっちゃんでした。

その後、新郎とまいちゃんが呼び出され、花嫁とその両親と一緒に控え室に入ってしまい、そのまま式は取り止めになりました。私は泣きつかれて眠ってしまったこともあり、詳しい経緯は大人になった今でもわかりません。

ただ、大変なことをしてしまった…と怯える私に後日、よっちゃんとその両親が挨拶にきてくれ、何故かお礼を言われ、余計に怖くなったことを覚えています。
その後よっちゃんはずっと独身でおり、それから今に至るまで二度と姉妹が揃った姿を見ることがありません。

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