できちゃった婚が普通になった21世紀の先へ【未来を生きる文章術012】

 2002年3月27日の文章。少子化という日本の深刻な課題はこの20年まったく解決されないまま来ているのだと、悲しい気持ちになります。

 文章としては最後、ずらしすぎ。婚活問題に踏み込むべきところを、決断力という抽象化を通して、社会問題にいってしまった。
 そこに落とすため、できちゃった婚をせつな的という方向に抽象化しているのが、旧い価値観ではないかとの指摘もできます。恥ずかしいな。今から読むと、失敗作。

 ともあれ、それまでどちらかというと「恥ずかしい」感じのあった「できちゃった婚」が、この頃を境に当たり前の風景になっていった記録とでもいうべき文章です。

 2020年の現時点においては、欧州の先進国などを知るにつけ、「できちゃった婚」より先、「結婚」という制度の創造的破壊が必要であると感じています。

 ひとつにはレインボーマリッジとでもいうべき、LGBTの社会的認知を結婚制度にも取り込んでいかなくてはいけないという流れ。
 ひとつには、子どもを持つことと結婚がイコールで結ばれているのを解きほぐす必要性。シングルペアレントやパートナーシップ家族的な、ある意味のカジュアルな家族の形を社会で認めていかないといけないということ。

 と書きつつ、日本社会に導入していくには、なんらかのなめらかな接続が必要だろうと感じてもいます。

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第1子の4人に1人が「できちゃった婚」出産、人生の決断を促すのは何?

日経ビジネスExpress2002年3月27日掲載

 厚生労働省が発表した「人口動態統計」によると、結婚期間が妊娠期間より短い出生数が、第1子全体の26.3%を占めました。いわゆる「できちゃった婚」の結果と思われる出生が4人に1人に達したわけです。1980年が12.6%でしたから、この20年で倍になった計算です。
 母親の年齢階級別に見ると、「15~19歳」で8割、「20~24歳」で6割、「25~29歳」で2割、30歳以降で1割となっており、母親が若いほど「できちゃった」が多くなっています。感染症情報センターによると、若い層に性器クラミジア感染症の増加が顕著といいますから、若年層に避妊に対する意識が欠如している結果とも考えられます。また、芸能人ができちゃった結婚するなど、「できちゃった」への抵抗感が薄れたことも背景にあるかもしれません。

 1人の女性が一生の間に産む子供の人数は減少傾向にあります。国立社会保障・人口問題研究所が発表している将来推計人口では、合計特殊出生率は1.39。人口の維持さえままなりません。ただし、人口動態統計によると配偶者のいる女性が出生する比率は上昇していますので、女性全体の出生率の低下は、主に晩婚化の影響ということでしょうか。
 とすると、少子化問題を考えるにあたっては、結婚という人生の節目の決断を促すのは何か、と問わざるをえません。1999年の婚姻数が約76万件、2000年が約80万件ですから、できちゃった出産が15万人という結果からすると、婚姻の19%前後、じつに5組に1組が「できちゃった結婚」という計算になります。
 現代においては、「妊娠したら結婚しよう」と、既成事実があってはじめて決断できるケースが多いようです。

 若者がキレやすくなったと指摘されるようになって久しいですが、結婚という人生の節目においても、熟慮の末の決断からはほど遠く、既成事実に応じた、せつな的状況に身を任せるほかなくなったということでしょうか。
 もっとも、せつな的な状況に身を任せているのは若年層だけではないのでしょう。政治をはじめ、社会全体がそうなのかもしれません。企業の経営者とて目下の乗り切りに精一杯、先々を見越した決断より、後手後手の対応が多くなる。それがけっきょく、企業の生命を絶ったりするわけですが。
 情報革命を受けて社会が大きく変動している中、大所高所からの決断力が求められる場面は間違いなく増えていきます。社会共通の課題として、思考力と決断力の養成が必要かもしれません。アムロ、キムタク、アンナなら「できちゃった」ですみますが、こと日本社会にとってはそうはいかないのですから。

ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。