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同調性志向からソーシャル志向へ【未来を生きる文章術011】

2002年3月20日の原稿。この文章を読みながら、ぼくはなんだか難しい思いを抱いています。

文章術というより未来予測の話になりますが、この文章で指摘している、何か具体的なモノを希求するのではなく気分を前提に求める、という消費行動の変化については、あたっている気がしています。

でも「騒ぎたい」とか「和みたい」といった気分じゃないように思うのですね。なんだろうというところが、難しい思いの原因。

思い当たるのは、当時なかったソーシャルメディアが今ではある、その違いで「見せるための消費」的な方向が生まれたことかなというところ。実はこの文章中に「とか弁」などの事例をもとに、すでに同調性的な志向を見出しています。その延長に現代のソーシャル志向があるとみています。

その上で気になるのは、その「見せたい」という消費は、その他の「和みたい」などの気分をオーバーロードするほどの力のあるインセンティブなのかということ。2020年1月の時点で振り返るなら、「見せたい」の先の「つながりたい」という思いを通じて、最優先のインセンティブになっているように感じ取れます。

文章術としては、造語によって伝えようとすることをキャッチ―にするという努力があげられますね。「副詞的消費」とか「ソムリエ的手法」とか、造語にしているからこそ、今に通じるトレンドをつかみ取っているところがあります。特に名詞ではなく副詞を消費するという「副詞的消費」コンセプトは、現時点でも深堀りする価値があるように思いますが、いかがでしょうか。

あとちなみに、文中で紹介しているグーグルワックが初登場したのは2002年1月8日のことだそう(Wikipediaによる)なので、3月20日のこの文章は、日本でも初期のうちにこの現象を紹介したものだったかもしれません。

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カラオケの風景を変える? 気分選曲技術に見る新しいマーケティング風景

 このところネットで流行している遊び、「Googlewhacking(グーグルワック)」をご存知でしょうか。膨大なデータベースを持つ検索エンジン「Google」に検索語を入力して、ヒットした件数を競う遊びです。少ないほどよいのがルールで、究極は「検索結果1件中1件」と表示されること。たとえば「イット革命 抵抗勢力」で検索すると2件。そんな風に遊ぶわけです。
 検索そのものを遊びにするとはなかなかのしゃれっ気ですが、振り返って日常生活に思いをはせれば、多くの時間を「探す」ことに費やしていることに気づかされます。資料探しに追われるビジネスタイムはもちろん、オフタイムでも昼食を食べる店からカラオケの選曲まで、探す悩みはつきません。
 このほど松下電器産業から発表された新技術は、そんな「検索時代」に生きる現代人の欲求の性質について考えさせてくれました。

 新技術は「ミュージックソムリエ」と名づけられた音楽検索技術です。音楽は特徴を自動的に数値化され、データベースに収められています。選曲者は「躍動感」「ソフトさ」などのイメージレベルを設定するか、「騒ぎたい」「和みたい」といったシチュエーションを選択すれば、適した音楽が探されるしくみです。カラオケでの選曲風景も変わるかもしれません。
 音楽をイメージで数値化する技術には驚かされますが、感性で検索するという着想は、いま大きな流れになっているように思います。癒し系の商品をはじめとして「気分にあわせて」というフレーズを目にする機会が増えましたし、今後さまざまな分野で取り入れられていくのではないでしょうか。
 というのも、物質的に充実した現代において、生活者は具体的な言葉に置き換えるほどの欲求をあまり抱きません。「チョコレート」「ガム」と具体的に欲していた時代はすでに遠く、いまは気分さえよければという時代です。

 最近の会話で、語尾を質問調にあげるしゃべり方や「わたし的には」や「とか」弁のようなあいまいな表現が増えたと指摘されていますが、ここにも、その場の雰囲気や気分を優先する態度が現れているように思います。
 消費においても、ふわっとした(食感の)チョコレートだとか、ゆったりした(気分になる)曲だとか、つまりは副詞的消費が行われるようになったということではないでしょうか。
 こうした副詞的消費に対して有効なマーケティング手法のひとつは、その気分にあった商品をレコメンドする、ソムリエ的手法でしょう。今後さまざまな分野で気分を重視して消費者にレコメンドする「なんとかソムリエ」が増えると予測するゆえんです。
 もっとも、レコメンドが進化すればするほど、探したり選んだりする楽しさを味わいたいという逆説的な思いを抱くのも人情。それが「グーグルワック」のような遊びにつながったりもするのでしょうか。あのゲーム、微妙な生活者のバランス感覚を表しているのかもしれません。

ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。