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03. 豊かな時間 【 旅の記憶 】 5/20

いわき出発の朝。連日の疲労が蓄積したのか、家族揃って起きられず。気分は生きる屍。こちらにきてから息子は、遊び相手がいて、遊んでみたかったおもちゃもたくさんあって、連日遅寝早起きだったけれど、ついに疲労がピークに達したらしい。やっとのこと起こして、登園前のお兄ちゃんにありがとうとバイバイ。また逢おうね。

出発の準備を進める。車に積み込まれるのを待つ荷物の多さにげんなりしてしまう。もっと身軽に旅をしたいのだけど、長期の旅だし幼児の荷物はあれやこれやと多くなりがち。きわめつけに菓子作りの道具類が幅を利かせている。どれも必要なものだからね。やむを得ない部分はあるさ。

たくさんの荷物は、夫の手によって立体パズルのピースを埋めていくようにどんどん車に収められていく。素晴らしい才能だ。

恩返しを返しきれないくらいお世話になったけれど、ささやかなお礼に菓子舗 緑雨として菓子を包む。想いを込める、祈りを込めるその時の内から溢れる温かさは、自分だけのものじゃなくて、きっと相手にも伝わるのだと思って。

掃除とブランチを済ませ、一通り周りを確認して出発。宿主は+cooceにいるので、家の鍵を返しに立ち寄る。ここで本当に旅立ち。ありがとうございました。また逢う日まで。

寂しさと感謝と不安と勇気が入り混じる。見送られる側ってこんな心持ちなんだ。

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早々に息子は車内で寝始める。お疲れやな、ゆっくり休みなされ。

夫といわきでの日々の振り返る。私たちが見聞きしたことは、重みのあるものが多くて話していると涙が溢れてくる。それでも、みんな日々、生きている。泣いたり笑ったりしながら。

自分の平凡さと、平凡さの中で凹んだり嘆いたりしている小ささに嫌気がさしてくる。けど、そこで人と自分を比較して上下をつけるのではなくて、フラットに受け止めること。そして、自分だったら何を選ぶだろうかと思い馳せることでいいのだと夫は言う。

人は人、私は私。心の底からそう思えたらどんなに楽だろう。何度も何度も人と比べては苦しむことを繰り返してきた。「自分軸で生きる」とか「ありのままの自分で生きる」とか、そういう言葉に出会っては人生の解答を得たような気分になって肝心な時に忘れていたり、そんなことできる状況じゃないと言い訳したり。結局は変わることに抵抗して悲劇のヒロイン演じてるだけなんだよな。

そんなことを解決するでもなくぼんやりと。流れていく景色とともに様々な思考が流れていく。

photo by COBAKEN


那須塩原市にある黒磯駅周辺。

何なんだこの町は。駅隣にある図書館はハイカラな建物だし、道沿いにはスタイルのある店が連なっている。夫の解説によれば、SHOZOというカフェがこのエリアの先駆けであり、そのスタイルに共感する人たちがだんだん増えてきて今の状態になっているらしい。

都会とは言い難いこの場所で個性が表現されている様子は、まちづくりのモデルにもなっていそうな感じもする。岩手の沿岸部で感じたような、(復興を目的として作られた)小洒落た施設は町や住民と融合しているのか?ということは同じように気になる点ではある。どの町も、観光誘致だけでなく、そこに住む人たちの生活に溶け込んだ住みよい町であってほしい。町の主体はそこに住む住民なのだから。

この町を訪ねた一番の目的は、tamiser table(タミゼ テーブル)にいくこと。数年前に夫が訪れたことをきっかけに興味を持ち始め、度々雑誌で見かけては想いを馳せていた場所。ようやっと訪れるタイミングが来た。

ひとつひとつ想いが込められ並べられたものたち。心ときめかせながら眺める時間のなんと豊かなことか。店主さんとも旅の話など。「暮らしを愉しむ人」「モノやコトを慈しむ人」という言葉がしっくりくるようなお方。お話しできてよかったな。また訪れたい場所の一つになった。

今夜の宿はもう少し山を登ったところにあるよう。道中、道路の両脇に広がる草原や森林。雨に濡れた景色も美しい。なんて幸せなんだろう。

この景色に出逢えたことも、黒磯という町にときめいたことも、いわきで出逢った人々との思い出も、有り難いもので、幸せで、絶妙なタイミングで出逢うべくして出逢った大切な出来事。この喜びをきちんと胸に刻もう。

今日もよき日であった。それではまた。

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