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帝国ホテルの壁を蹴る人


 あれも昭和二年かその前年でもあつたらうか。まだ寒さの残つてゐる早春であつた。偶々関西から上京して、帝国ホテルの一室に宿泊してゐた谷崎の招くままに、僕は芥川を伴つて(?)訪問した時、夜の更けるのも忘れて三人文芸談に花を咲かせて、高談四壁を驚かせたものか、不意に東隣の壁をはげしく蹴る音に愕かされ、やつと気がついて高声を低声に改めはしたものの、話は滾々として尽きないのに、隣室の客は我々を全く沈黙させなければ措かない気と見えて、いつまでも蹴りつづける。(佐藤春夫『個人的な余りに個人的な饒舌=龍之介対潤一郎の小説論争=』)

  芥川は昭和二年七月二十四日没。


 谷崎と芥川と佐藤春夫が文芸談をしていて、それを壁を蹴って止めさせたのは一体誰なのか? これが奈良から上京していた志賀直哉だったとしたらなんとなく面白いが、それにしても、小田原事件による谷崎潤一郎と佐藤春夫の「絶交」ってなんだったの?

 なかよさそうじゃん。






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