マイナンバー制度の問題点④
マイナンバー制度の根本的な陥穽は情報不足にあると書きました。それはすなわち制度設計者、政策決定者に制度全体を見回す能力がなく、リーガルとテックの融合がなく、いきあたりばったりで、現場を見ないから起きていることだと思います。
たとえばマイナンバー制度の問題として、戸籍の問題があります。そう書くとたちまち、それは戸籍の問題だろうと文句を言う人がいますが、戸籍の問題が「問題」として浮かび上がってきたのは、まさにマイナンバーによる情報連携の仕組みの中に戸籍情報をどう取り入れるか、ということを考え始めてからのことなのです。
そこでようやく以下のようなことが「問題視」されました。
・住民基本台帳ネットワークシステムは四世代の続柄コードで管理されているが、戸籍は戸籍法により二世代までの管理となっている。
・住民基本台帳ネットワークシステムで使用されている文字は原則JIS第二水準約2万字だが、戸籍に使用されている戸籍統一文字は5万6040字で互換性がない。
・戸籍に使用されているヨミガナに法律上の根拠がなかった。
→ ついでに法律のヨミガナに法律上の正解がないことも明らかになった。
・戸籍の管理システムはまちまちで、一部はマイクロフィルム。
……こうしてようやく戸籍のヨミガナの定義について議論が始まりました。しかし現時点では文語体と口語体と旧字体と新字体が一つの法律の中で継ぎはぎにされている問題など、議論が始まっていない大きな問題が隠れています。
何故こんなことになっているかと言えば、「いきあたりばったり」で色んなことが、よく調べられないまま決まって行ったからです。要するに国の情報管理の仕組みをスマートに変えるにはどこからどう手を付けて行くべきかという俯瞰からの眺めがなかったということです。
今のマイナンバー制度というものは基本的に住民基本台帳ネットワークシステムの建て増しだと考えていいと思います。今後、住民ではなく、海外在住の国民を含めた情報管理のために附票ネットワークというものが計画されています。
しかし果たしてこれが正解なのでしょうか?
私は違うと思います。
まず必要なことは法律概念の整理・統合です。その前に文語体と口語体と旧字体と新字体が一つの法律の中で継ぎはぎにされている問題こそ検討されるべきなのです。
現にマイナンバーの主な利用目的である「税」と「社会保障」の間で、同じ呼び名のものが別の意味で使われていること、そのことが問題視されないことが一番の問題でしょう。
あるいは同じ社会保障の枠組みでも健康保険と年金では「お給料」のことを「報酬」と呼び、労働保険では「賃金」と呼びます。そして呼び名だけではなく「報酬」と「賃金」は全く異なる法律概念なのです。税法では「報酬」とは弁護士などに支払われる外注費です。さらに言えば労働法の中でも法律ごとに「賃金」の概念が異なります。こうした問題を無視して、制度設計が進められています。
理想を言えば法律の「デジタル化」(気持ち悪い言葉ですが)が最優先ではないでしょうか。
やっと検討が始まりましたが、方向性が間違っています。建て増し方式ではスマートでないと何故気が付かないのでしょうか。商法の一部か会社法制定により削除されたように、一気に置き換えなければあまりにも非効率なのです。
しかしそれができないのでこんなことになっています。段取りが悪いんです。
マイナンバー制度の問題はただ単にマイナンバーを廃止したくらいではもう収束しません。ある意味でマイナンバー制度は明治以来の行政システムのあらをあぶり出したと言えるかもしれません。ただ段取りが悪くて散らかって、不必要なお金がとめどもなく流れ出しています。
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