実際、人に心臓マッサージをした時の話
実は私、実際に人の胸を押して、心肺蘇生をした経験があります。
ども!長野県長野市にあるフィットネスクラブの支配人をしているこばやしです。シニア向けのフィットネスクラブや子ども向けスイミングの運営をしたり、万が一の時に役立つ救急法の普及活動もしています。
今回は、救急法指導員の私が、実際に人命救助を行ったときのお話です。人形でしか練習していなかった胸骨圧迫を実際に経験していますので、有事の場面でのイメージづくりになればいいなと思います。
リアルな救助現場にて
あの出来事は、確か冬だったと思います。ある日、クラブ事務所にいると緊急の電話がロッカーからなった為、スタッフが走りました。
通報が女性ロッカーからという事もあり、女性スタッフが駆け付けたのですが、私たちはその間、万が一に備えて、女性ロッカー前に、AEDと毛布とパーテーションを準備して待機していました。
この瞬間はいつも、胸の奥からくるドキドキを鎮めながら、落ち着いて、落ち着いてと心に言い聞かせています。
すると、中からスタッフが走ってきて「救急車を呼びます!」という言葉を聞き、「あっ!これは緊急事態だな」と心の中で悟ります。
そして、私を含めた男性スタッフは、パーテーションで自分たちを隠しながら女性ロッカーの中に入っていき、現場の浴室に入りました。
浴室に入ると、両脇をスタッフに抱えられた年配の女性がお風呂のふちに腰を掛けていました。
私たちの呼びかけには何も答えることはなく、下を向いてうつ向いていたため浴室の床に毛布を敷いて、女性をそこに寝かせて、生命の兆候を観察しました。
コンクリートや道路などに人を寝かせるとき、地面が冷えていると熱を奪われます。体温を下げる事を防ぐ必要があります。だからといって、ふかふかの布団だと、適正な胸骨圧迫ができないので、それも考えなくてはいけません。下が柔らかいと、胸を押し込んだ時にその力が下に逃げるためです。今回は、浴室ということもあり、毛布で対応しました。
救急法は、今まで何回も練習してきたし、何人も教えてきましたが実際の現場はこれが初めてです。おのずと手に汗がにじみ出てくるような緊張感に襲われましたが、ここは落ち着いて、今できることをやればいいと心に決めました。
まず私たちの役目である、医療機関に届けるという役目は119番通報でできています。私たちが行うのは、救急隊がくるまで、それまでの手当です。
反応がない、普段通りの呼吸がないことを確認し、AED取り付け準備を指示するとともに、女性の胸に手を当て、押し込みが弱くならないように練習通りの力加減で、意を決して女性の胸を押し始めました。
女性の胸から聞こえたボキボキという音
女性の胸を押し瞬間、鈍い音が腕を通じて聞こえました。
「ボキボキ」
その音を聞いて、一瞬「あっ!」と思いましたが、ひるむことなく、気にしない、気にしないと心の中で叫び、押し続けました。
押しながらも、女性の反応を確認することが大切なので、顔を見ながら押すと、女性の顔が一瞬、痛そうにゆがみました。(顔を見ながらの手当は基本です)
相手の反応(顔を歪めた動作)が観察できたため、胸骨圧迫をやめ、肩口に手を置き呼びかけました。
「大丈夫ですか!?聞こえますか!?」
すると、目を覚ますようにゆっくり目が開きました。
女性は次第に意識を取り戻し始め、こちらの会話に応え始めました。それまでの時間で、他のスタッフがこの女性が糖尿病だという事を調べていたため、ブドウ糖タブレットをひと舐めさせると、顔色が一気によくなり、回復してきました。
そうこうしているうちに救急隊が来たので、事の流れを説明しました。胸の音の事も。
女性も回復していましたが、念のために病院へ搬送されました。
その後、家族から電話がかかってきて、状態は安定していて、問題はなさそうです。お騒がせしました。と報告いただきました。そして、心配だった肋骨の事を聞くと、骨は折れていなかったとのこと・・・じゃあ、あの正体は?
音の正体
その2日後、なんとその女性がご来館されました。一瞬、こんな早く来館して大丈夫?と思いましたが、いたって元気!ニコニコしていました。しっかり回復したとのことです。
でもあの音が忘れられず、胸が心配だったので「胸は痛くないですか?」と聞くと、検査もしたけど、全く問題ないですとのこと。
えっ!?じゃあ、あの音は何だったの?と考えた結果、あれは、胸を押し、背骨が矯正された音?だと解釈しています。骨が折れていなくて、背骨がまっすぐになっていたんだと、解釈したら、ほっと一安心でした。背骨が伸びたかどうかはわかりませんが、折れていなかったことは何よりでした。
ただ、言いたい事は、もし、胸骨圧迫してボキボキと骨の折れるような音がしたとしてもひるまず続けるという事です。
私の時のように、ただ骨の音がなっているかもしれません。こういう意識がなく、呼吸がない時は、何よりも大切なこととして、脳や全身に酸素を送ることが最優先ですので、骨折は二の次です。
このことは皆さんに伝えたいなと思いました。
あまり、こういった事態に遭遇することはないかもしれませんが、意識がない人がいたらまず救急車。
呼吸がなかったら、胸を押す。
ボキボキと音がしても救急隊が来るまではやめない。
これを頭の片隅に入れて有事の時に思い出してほしいなと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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